「被害者の気持ちを考えてみよう」と言っても効果がない?

しかし実は、性犯罪者に対して、被害者への共感を強化するように、「被害者がどれだけ苦しいか考えてみましょう」働きかけるのは、効果的ではないという研究エビデンスも複数あります。つまり性犯罪というのは、他者に対する共感だけで統制できる行動ではないということです。

性犯罪行為の背景にはさまざまな要因があります。そのため、性犯罪を性欲の高まりによって起こしてしまうものと理解するのは単純すぎる間違った捉え方ですが、それでも、食欲や睡眠欲といった根幹の衝動が理性だけでコントロールすることが困難な状況があるように、性欲が一定の役割を果たしているケースもあるでしょう。要するに「被害者が悲しむから、やらない」という共感的な考えだけでコントロールする・できるものではない行動ということなのです。

ベンチに座っている悲しそうな男性
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「反省なき更生」をスローガンにするべきだという議論

その点において、性犯罪の再犯防止プログラムにおいては「反省なき更生」をスローガンにするべきではないかという議論もあります。「悪かった、もうしません」と反省の言葉と態度を示しながら、また加害してしまうよりも、反省すること、させることに多くの時間やエネルギーを割くのではなく、二度とやらないための具体的な方法を考えたほうがいい。そのためには行動コントロールができるようになることを第一とし、そのための介入をするべきではないかという考え方です。

もちろんこの考え方は倫理上の議論があるところかもしれませんが、性犯罪者は人権について深い理解を求める働きかけより、どうすれば犯罪行為をせずにすむかを考えていく方が再犯防止には効果的であることも多いのは事実ですし、そのために「犯罪を起こしたら、自分の人生はまずいことになる」と利己的に認知していくことも、行動のコントロールには役に立つこともあるわけです。性犯罪や性犯罪者に対する一般感情からは納得のいかない考え方ではあるでしょうけど。