仕方のないこともあるが……

シェフはどんな料理を作る時も毎回、味見をしているから、おかしな味のものを出すことはない。茹で過ぎたパスタは出さずにすぐに茹で直すから、アルデンテでないパスタを出すこともない。

宴会コースの場合、うちの店ではパスタを2品出すが、お客さんの腹具合を直前に確認してシェフはテーブルごとに量を調整する。残されたくないからだ。それでも、話に夢中になって料理はそっちのけになり、冷めたまま残されることもある。

そんな時はシェフに見せないようにこっそり廃棄しようと思うのだけれども、そういう時に限って手が空いたシェフがお皿を下げるのを手伝ってくれたりする。残された皿を見て、悲しげな顔をするシェフを見るのがスタッフとしてもたまらない。中には「色々食べたくてたくさん頼んじゃったんだけど、お腹いっぱいになっちゃってごめんなさいね。でも美味しかった!」と、気軽に残す人もいる。

ゴミ箱に捨てられるピザ
写真=iStock.com/AndreyPopov
※写真はイメージです

どうしても口に合わなかったり、体調や病気の関係で残さざるを得なかったりするのはもちろん仕方ない。でも、そうでなければどうか食べ切れる量、食べられそうなメニューだけ注文して完食してほしい。あらかじめ言ってもらえば量を少なくすることもできる。心の底からのお願いだ。

理不尽な値下げを要求してくる人も

特別扱いを自分から要求するお客さんと出会った時も悲しい気持ちになる。

例えば、宴会のコース料金を値切ってくるお客さんがたまにいる。うちの店では飲み放題込みで6000円と7000円のコースを用意しているのだが、ある時、これを「4000円にできないか?」と大幅に値切ってきたお客さんがいた。

通常、飲食店では原価率30パーセントぐらいで元が取れると言われているが、食材にこだわるシェフは、それを遥かに上回る原価率で料理を出している。その努力を無視して、飲み放題込み4000円で満足できるものを出してくれというのが、いかに無理な要求かわかってほしい。この時、シェフは「その金額だとろくなものは出せませんから」と断った。さらに、常連さんほどではなく、数回来ていただいたぐらいのお客さんにたまにあることだが、特別なサービス提供を要求する人がいる。

つい先日、シェフと少し顔見知りの中年の女性グループが予約したとして来店したのだが、店で把握していなかったことがあった。予約を書き込むカレンダーに名前がない。幸い席は空いていたので、すぐに問題なくお通しして料理とワインを楽しんでいただいた。「美味しい。美味しい」と喜び、満足していただいたはずだった。