任意後見契約でも「購入キャンセル」は可能

財産管理だけでなく、高齢の親が詐欺や悪徳商法などの被害に遭うことも心配です。実は、任意後見人には法定後見人に与えられている取消権がありません。取消権とは、本人が後見人の同意を得ずに意思表示をした行為、たとえば、訪問販売などで不要なものを購入したといった場合、後見人があとで取り消せる権利のことです。

これは、任意後見契約を結ぶ際に、代理権目録に「訪問販売、通信販売等各種取引の申込みの撤回、契約の解除、契約の無効、取消しの意思表示並びに各種取引の事項」と「各種紛争処理に関する事項」を入れておくことで対処することができます。

任意後見の仕組みは図表3の通りです。任意後見人は定期的に裁判所が選任した任意後見監督人に報告をしなくてはならず、適切な財産管理が行われているか、不正な事務はないかなど、本人の財産などが守られるようなチェック体制がとられています。

【図表】任意後見のチェック体制
筆者作成

セット契約で親の預金にアクセスできるように

当初は財産管理等委任契約に基づき、本人の健康状態を把握するための見守り、財産管理、身上保護等の事務を行い、判断能力が低下した後は任意後見監督人を選任して任意後見契約を開始するという流れです。

財産管理等委任契約は公正証書で作成することを義務付けられているわけではありませんが、任意後見契約とセットで公正証書を作成することにより、任意後見開始前であっても、任意後見人となる人が預貯金の払戻し等を行えるのが一般的です。

冒頭で触れた「金融取引の代理等に関する考え方および銀行と地方公共団体・社会福祉関係機関等との連携強化に関する考え方(公表版)」でも、「任意後見監督人が選任される前であっても、任意後見人が顧客本人の預金取引を代理できるよう、任意後見契約とともに委任契約を締結している事例もある。その場合は、(略)委任契約の受任者である任意後見人との取引が可能」と注記されています。

契約に際しては、司法書士等の専門家に相談し、本人や家族とともに、どのような内容にするかを十分に話し合い、書面を作成してもらいます。おひとりさまの場合、受任者を友人や知人もしくは司法書士法人やNPO法人等の団体にすることもできます。