島地氏が選ぶ「泣ける・笑える」傑作
●人生に正解のないことを知る
『月と六ペンス』サマセット・モーム著(新潮文庫)
「高校時代にモームの小説から多くのことを教わった。『月と六ペンス』では才能があれば何をやってもいいって(笑)。同じモームの『人間の絆』では、人生とはペルシャの絨毯のように編み方や模様が少し違うだけ。本質的には同じもので、目的や正解などないと。永遠の愛は報われないことも知ったよ」
●偉人たちの最高の瞬間がここに!
『人類の星の時間』シュテファン・ツヴァイク著(みすず書房)
ツヴァイクは1920~40年代に数多くの伝記文学、歴史小説を残した作家。「社会人になってから読んですごく影響されたのがこの本。『マリー・アントワネット』で描かれる女王の壮絶な生き方、死に様も圧巻。大衆がいかに愚かかがよくわかる。あ、これは悪い意味での愚かさね。群れに流されてはダメだ」
●こんな破天荒な君主だった!
『大帝ピョートル』アンリ・トロワイヤ著(中公文庫)
初代ロシア皇帝ピョートル一世の破天荒な生き方を描いた歴史巨編。「後に女帝エカテリーナとして君臨するかみさんも強烈。だって夫が戦争に勝つために敵将にこっそり宝石を渡すんだよ」
●男の憧れがすべて詰まった傑作
『鷲は舞い降りた』ジャック・ヒギンズ著(ハヤカワ文庫)
ドイツ落下傘部隊の物語。「上官が主人公を評する台詞。『非常に頭がよくて、勇気があって、冷静で、卓越した軍人──そして、ロマンティックな愚か者だ』。この台詞にやられたよ」
●美しき恋愛の世界に浸ってみよう
『赤と黒』スタンダール著(岩波文庫)
「恋愛は3年も経てば熱は冷めて男と女の関係でいられなくなるっていうのがわたしの持論だけど、主人公のジュリアン・ソレルは高熱にうなされる幸福の絶頂期で死に絶えた。羨ましい」
●都会で一旗あげたい地方出身者必読!
『ペール・ゴリオ パリ物語』バルザック著(藤原書店)
『ゴリオ爺さん』の鹿島茂訳。「南仏からパリに出てきた主人公が、モンマルトルの丘からパリの夜景に向かって『今度はお前と勝負だ!』と叫ぶラストがいい。地方出身者はぜひ読もう」
●落ち込んだとき、ユンケル並みに効く
『モンテ・クリスト伯』アレクサンドル・デュマ著(岩波文庫)
「無人島に一冊持っていくとしたらこの小説だって、剣豪小説の大家、柴田錬三郎さんと意気投合しました。落ち込んでいるときに読んでみなさい。ユンケル黄帝液並みに効くから」
●出張中でも読めるSF小説の金字塔
『スローターハウス5』カート・ヴォネガット・ジュニア著(ハヤカワ文庫)
第二次大戦中、ドイツで連合軍による凄惨な空襲を受けた主人公が、時空間を旅するSF小説の古典。「笑えて泣けるといったらこれ。移動中の新幹線でもすぐに読めるからお勧め」
●絶望的な悲劇から明日への活力を得る
『居酒屋』ゾラ著(新潮文庫)
「バルザックが喜劇を描いたのに対し、ゾラは悲劇をとことん描いた。極貧の中、アル中になって身を崩す人々。貧乏は辛いなあってつくづく思った。身の丈にあった分だけは稼ごうってね」
●豪胆和尚の連想力と飛躍力は圧巻!
『毒舌日本史』今 東光著(文春文庫)
歴史上の人物を和尚独自の視点で斬る。「聞き役は、当時の文藝春秋社長の池島信平。東大で西洋史を学んだインテリに、独学で得た知識でユニークな論を展開する。今東光大僧正の連想力と飛躍力は圧巻」