これを現代風に解釈すると、ため池に滑り落ちて、上がれずに沈んでいった女の子がほんとうにいたのかもしれません。「沼の主」という妖怪を物語上に設定することで、子どもたちにわかりやすく池の水難事故を教えたのでしょう。
でも、この令和の時代、昔だったら怪異現象と呼ばれて人々に恐れられていたものが次々と科学で説明できるようになってしまい、現代っ子が妖怪を怖がってため池に近づかないようにできるかというと、それはさすがに期待薄です。
ならば、徹底的に科学的に、現実を目の当たりにすることで安全対策をすべきでしょう。
「ため池」を地域の人たちに伝える
最近、全国の自治体が「ため池サポートセンター」という組織を作り、ため池の必要性や事故防止策について地域の人たちに伝える取り組みが始まりました。
画像6は、その研修会の様子です。実際のため池を使い、斜面を歩くと簡単に滑落すること、一度滑落したら這い上がることができなくなることを、集まった近所の小学生たちの目の前で実演しています。
同様の実演は、ため池を管理する農家の皆さんに対しても行っています。画像7は、ため池に落ちた人を救助しようと陸から手を差し出して引き揚げようとしたら、逆に池に落ちてしまう瞬間をとらえています。さらに、このようにして水に落ちたらどのように背浮きになったらよいか、背浮きの状態でどうやって体力を温存するか、具体的な方法を伝授します。希望者がいれば、実際に入水して体験してもらいます。
フェンスだけでは足りない
ハード対策としては、まずフェンスが挙げられます。池の周囲をフェンスでしっかり囲って、人を入れないことが大事です。ただ、現実にはこのフェンスを越えてまで内側に入り、ため池で釣りをしている最中に滑落する事故が後を絶ちません。
確かに、立入禁止の内部にフェンスを越えて立ち入ったわけですから、立ち入った人が悪いと言えばそれまでです。でも、血を流さずに豊作、それに加えて溺水なしの「三方よし」を目指すなら、フェンスは立ち入りを制限するための設備であって、溺れないようにするための設備ではないことに気付くはずです。
そこで、ため池での溺水事故を防ぐためのハード対策として、ため池の斜面に這い上がり設備を設置する事業が、全国で急速に進んでいます。