売れる営業はどこが違うのか。元リクルート全国トップ営業の渡瀬謙さんは「上手な説明をすれば売れるというのは、単なる妄想にすぎない。一方通行の説明ではなく、相手と会話をしながら説明している状態を作ることが大切だ」という――。

※本稿は、渡瀬謙『静かな営業』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

リクルート銀座8丁目ビル(リクルートホールディングスの登記上の本社)=2009年2月6日、東京都中央区
写真=時事通信フォト
リクルート銀座8丁目ビル(リクルートホールディングスの登記上の本社)=2009年2月6日、東京都中央区

「上手なしゃべり」は必要ない

営業の代表的な練習方法として、ロールプレイ(以下ロープレ)というものがあります。社内で上司や先輩を相手に商談の模擬練習を行うものです。

私はこのロープレが大嫌いでした。記憶したセリフをそのまま話すことが苦手なので、どうしてもぎこちなくなってしまうのです。さらに、声が小さいとか、抑揚がないなどと指摘されて、余計に緊張してしまうありさま。ほめられたことは一度もありません。

それでも最後には全国トップになれたのですから、営業にとってロープレがうまいかどうかは関係ないことがよくわかります。

反対に、ロープレがものすごく上手な人もいました。アナウンサーがニュースを読むようにスラスラと商品説明の言葉が出てくる。上司からの評価は高いのですが、そんな人に限って売れないケースがよくありました。

「なんでおまえが売れないんだろう?」と上司も当人も首をかしげている。

でも、いまならその理由がわかります。

上手に話せる人ほど、「自分が上手にしゃべる」ことに意識が向いてしまって、お客さまへの意識が薄くなる傾向があるからです。

目指すべきは「相手が聞いてくれる」説明

うまい説明をすれば相手は聞いてくれると思い込んでいる人は多いですが、実際は違います。どんなにしゃべりがうまくても、その内容に興味がなければ誰も聞いてはくれませんよね。

聞いてくれないけれど上手な説明と、聞いてくれるけれど下手な説明。営業として目指すべきは後者の「相手が聞いてくれる」説明です。上手な説明をすれば売れるというのは、単なる妄想にすぎません。

とくにしゃべりが苦手な私のようなタイプが上手にしゃべろうと努力すると、かえって売れなくなります。私が売れるようになったのは、説明の練習をやめたからです。

そこには明確な理由があります。

それは、説明の練習をすればするほど、練習通りにしゃべりたくなるものだから。

せっかく頑張って覚えたセリフなので、最後まで全部言いたくなります。でも、それでは、聞いているお客さまが、途中で「それってどういう意味?」「そこをもう少し詳しく聞きたい」「そこはもう知ってるよ」などと思っていたとしても、口を挟む余地がありません。それが問題なのです。