学会など大きな会合や勉強会、佐藤さんが企画する乳腺のセミナーといった集まりは医師に会う絶好のチャンス。
「1000人規模で集まる学会などでは、1日30人以上の先生と一挙にお会いできる。ただし、研究発表をする先生にはお時間の余裕をうかがってから話しかけるようにしています」
病院を一歩離れると、それまで取っつきにくかった先生が気さくに対応してくれて、その場で意気投合することもある。
「学会では、先生に『10分ください。無理なら3分でも』とお願いして、要点を3つくらいに絞って話します。内容は商談というよりも、乳腺診療のあるべき姿といった話題。会話をあらかじめシミュレーションして先生の熱意を引き出すようにしています。また、先生にお会いするために出張先にお邪魔し、そこで時間をとっていただくこともあります」
医師にとっては、学会や出張先のほうが、時には緊迫感漂う病院よりリラックスしやすい。この場こそ心理的な距離を縮めるチャンスだということを佐藤さんは経験的に知っているのだ。ちょっとした立ち話でも商談につながるような流れをつくることで、多忙な医師と佐藤さんの双方にとって有意義な時間の使い方をさりげなく実現しているのである。
>>田原さんの分析
病院での医師は診察で忙しいだけではなく、精神的にも緊張感を持っているものです。佐藤さんも外来がない日や学会などの先方がフランクになれる場を利用して、相手に負担がかからないように気を使って接していますね。しかも、あらかじめシミュレーションして有効なコメントを引き出すなど、与えられた短い時間を有効活用しています。
商談は生き物。事前に相手のスケジュールや精神状態を把握するのはもちろん、対面したときに体調や機嫌を察知して話しやすいテーマに変えたり、素早く切り上げる機転が必要ですが、タダで帰ってきてはもったいない。佐藤さんのように、たとえ立ち話でも次につなげるということを最低ラインとして意識することは重要なポイントだと思います。