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©「福田村事件」プロジェクト2023

――物語の骨格として大切にしたのは?

加害者をしっかり描きたいっていうのがまずあった。普通の人がこんな残虐なことをしてしまうというのが大事な部分なので、普通の人であることは強調したい、村の生活や日常、喜怒哀楽をしっかり描きたいと思った。

――荒井晴彦、佐伯俊道、井上淳一の脚本家3人と意見がぶつかったことなどは?

いっぱいありますけど、例えばラストのカット。その前の場面で終わったほうが映画としてスタイリッシュだと言われたが、僕は「絶対にだめです」と。

強いて言えば、スタイリッシュに終わらせたくなかったし、映画は「欠落」が大事だと思っているから。せりふのないラストでみんないろんなこと考えてくれるんじゃないか、と。

――俳優は森さんが好きな人を集めたのか。

東出さんは僕が監督をやるって聞いた段階で、どんな役でもやりますと手をあげてくれたらしい。瑛太さんなどメインの役者はこちらからオファーした。

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――東出さんは不倫騒動でたたかれていた時期?

少しほとぼりが冷めかけた頃だと思う。僕の中で彼の印象はそんなに強くなかったが、今回は本当に惚れ直した。役者はみんなすごかったです。しっかり役作りしてきてくれたから、あまり僕から言うことはなかった。

――劇映画はまた撮ってみたいか。

うん。実は3年前からドキュメンタリーを1本撮っていて、それは継続しつつ、ドラマでもまた何か、と思っている。いつかやってみたいのはホラー映画。映画作りの王道というか、映画作法のいろいろなチャレンジができて、楽しいんじゃないかな。

――あの虐殺のようなことは今の日本では起きないはずだが、その歴史を知る意味は?

集団化という点では、むしろ大正時代より今のほうが強いんじゃないかな。不安と恐怖があるから人は集団化を起こす。台湾有事、北朝鮮のミサイル、ロシアの侵攻などで、今は「戦後最も危機的な安全保障環境」にあると言われている。

「キューバ危機やベトナム戦争があったじゃん?」と思うが、言い換えれば不安と恐怖が高まっているということで、何かをきっかけに集団化が起きるのではないか。

竹やり持って、というようなことはないだろうが、(在日コリアンが多い)京都・ウトロ地区への放火のようなヘイトクライムがあったり、入管法改正もその流れだと思う。

本音は外国人を入れたくない、日本人でまとまりたい。欧州で移民排斥の政党が支持を集めているのも不安と恐怖からで、世界中で集団化が進んでいる気がします。その意味で、「100年前の事件だね」では終わらないと思う。