これだけでもすごい内容ですが、さらに素晴らしいのが、別紙として添えられた「日本人メジャー選手一覧」です。これは選手別の活躍年代が多色刷りで帯グラフ化されたもので、これを見れば、「いきなりメジャーに行くよりも、日本で基礎体力をつけて実績を挙げたうえで挑戦したほうが、活躍の可能性が高く選手生命も長い」ことが一目瞭然でした。
企業もDX(デジタル技術活用による業務改革)推進に大いに取り組んでいますが、このデータの力を存分に活用した資料は早くも2012年の傑作で、今でもデータ分析の成功事例として人気があります。
大谷も想像していなかった「二刀流」の提案
さらに栗山監督は、大谷選手に投手と打者の「二刀流」の育成方針を示しました。当初は大谷選手本人も「そんな考えはなかった」と驚き、かつ懐疑的であったものの、日本ハムへの入団会見に臨んだ際には「どっちでも頑張りたい」と二刀流への挑戦を表明するに至ります。これこそ、大谷選手が「二刀流」への第一歩を踏み出した記念すべき瞬間でした。
入団後は大谷選手の最高の練習環境をつくるため、まずは未成年という年齢を考慮し、外出制限をかけます。このため、たとえ食事の誘いであっても球団に事前に報告せねばならず、皆が簡単には大谷選手を引っ張り出せなくなりました。
現に入団当初の大谷選手は、チームメイトとの食事以外ではほとんど外出しなかったそうです。入団前からスターだった大谷選手にとって、こうした誘惑や社交のわずらわしさから解放されたことは、大いにプラスだったことでしょう。
登板間隔にも本人の意見を取り入れる環境を用意
また身体のコンディションづくりも徹底され、日々のチェックから投手出場と打者出場のサイクルまでが緻密につくり上げられました。さらには登板から何日で次の登板をするかなども本人の意見を取りいれて決めました。本人の夢であった「将来のメジャー行き」も常に念頭に置き、全部自己判断で進められるよう、球団を挙げてサポートしたのです。
やがてメジャーへの挑戦を成功させ、MVPを獲得するまでの成長を遂げた大谷選手はその後、栗山監督率いる侍ジャパンで投打にわたり大活躍します。グラウンドだけでなくベンチでも控室でもチームをリードし、ウイニングボールまでをも自らが投げ、見事世界一を決めました。両者にとっても感無量だったに違いありません。
これらの逸話からも、人材育成とは、良質な環境を用意したうえで良質な言葉をかける修養である、という指導者の徳がうかがえます。
あなただったら、人(部下や後輩、わが子)を伸ばすためにどんな言葉をかけますか?