走る不動産と呼ばれたF40の価格
6月下旬、イタリア・マラネロのフェラーリ本社にて、1億円超えの限定モデルが発表された。車名はSF90 XX ストラダーレおよびSF90 XX スパイダーである。
フェラーリの限定モデルと言えば、87年に発表されたフェラーリ創業40周年モデル、F40が大変有名だ。F40は、当時世界最速のロードカー。日本での正規販売価格は4500万円だったが、バブル景気を背景に取引価格は急騰し、90年には2億6000万円に達して「走る不動産」などと言われた。
当時のフェラーリ本社は、現在のようなしっかりした経営戦略がなかったため、殺到する注文に応え、当初400台程度の予定だったF40の生産台数を、最終的には1311台まで増やした。そのせいもあり、バブル崩壊とともにF40の取引価格は暴落。数年後には、定価を若干下回る4000万円前後に落ち着くという、波乱の経緯をたどることになった。
88年に創業者のエンツォ・フェラーリが亡くなり、91年に敏腕のルカ・モンテゼーモロ氏が社長に就任すると、フェラーリの経営体制は一気に現代化された。
「市場の需要より1台少なく作れ」
F40の後を継ぐ形で95年に発表された限定モデル・F50(日本正規販売価格5000万円)は、349台という当初の生産台数がしっかり守られた。この349台という数字は、「市場の需要より1台少なく作れ」というエンツォ・フェラーリの名言に従ったと言われている。
このF40とF50までは、一般的な知名度も高いが、その後のフェラーリの限定モデルの車名を記憶している方は、あまり多くはないだろう。かつてスーパーカーブームの頃は、スーパーカーを買えるわけがないチビッ子たちがスーパーカーに熱狂したが、21世紀に入ってからは、フェラーリの限定モデルに熱狂するのは、ほんの一部のクルマ好き富裕層だけになったからだ。
そうなった理由はふたつある。
第一に、クルマの速さが非現実的かつ無意味な領域に達し、憧れの対象ではなくなったこと。第二に、二極化が進んで、大衆と富裕層との分断が深まったからである。