国内市場が成熟化する中で、日本企業は海外市場に活路を求めて激しい競争を展開している。しかし、韓国・中国企業の猛烈な追い上げをかわすためには、現地のマネジメントを担うグローバル人材が決定的に不足している。

エーオンヒューイットジャパン会長
大滝令嗣氏

これまで日本企業は、海外の組織をまとめ、意思決定することができる人材の計画的な育成を怠ってきた。今後、海外売上高のウエートが増すにつれ、海外で通用する人材の育成が急務であると同時に、彼らを対象とした採用や昇進などの人事システムも大きく変化するのは間違いないだろう。

すでにグローバル展開を意識した新卒採用を行う大手企業は多い。グローバル採用枠を設けて、海外経験を持つ学生など、異文化対応能力のある人を求めている。日本人だけではない。外国人留学生や、海外拠点での採用も増やしており、日本の大学生は国外の学生との厳しい競争に巻き込まれているのだ。

これまで日本人しか幹部、役員に登用されなかった昇進の仕組みも大きく変わる。海外売上高の拡大に伴い、日本人、外国人を問わず、海外で実績を上げた優秀な人材が、グローバル本社の幹部に登用される時代になるだろう。

従来の出世パターンは、国内組織を順当にキャリアアップし、役員に上りつめるというものだった。しかし、売り上げの7 割、8 割を海外で稼ぐようになれば「私は海外のことはよくわかりません」では役員として通用しなくなる。つまり、これまでの出世パターンが大きく変わりつつあるのだ。

今後は、日本人であっても海外の子会社に赴任し、そこでのキャリアと実績が出世の必須条件になってくる。大手企業の社長の中には「うちの役員の半分は海外経験者です」と自慢話をする人がいるが、これからは自慢でもなんでもなくなる。

たとえば、リーマン・ブラザーズを買収した野村証券のような会社では、国内の出世コースを歩んできた人は「ルールが変わったんじゃないか」と気づき始めているはずだ。海外経験が豊富で、海外の同僚たちと丁々発止で渡り合い、しっかりコミュニケーションが取れないような人は上には上がれないというルールが間近に迫っている日本企業は多い。

(getty Images=写真)

そういう時代に、「自分は海外はちょっと……」とか「できれば国内にとどまりたい……」などと思っている人たちは本当に不幸だ。いちローカル市場にすぎなくなる日本にしがみついていても、出世が望めないどころか、リストラが発生するたびにお呼びがかかる。

すでに、本社の部分的な機能を海外に移す動きが始まっている。たとえば、富士通はグローバル人事部門をロンドンにいるイギリス人がみている。日本本社がなくなるわけではないが、一番適切なところにグローバル本社の一部の機能を移転することは、十分にありうるシナリオだ。

語学に関して言うと、今後は、バイリンガルどころかトライリンガル人材が必要となってくる。日本にとどまっていては、活躍の舞台も限られることになるだろう。

※すべて雑誌掲載当時

(溝上憲文=構成 宇佐見利明=撮影 getty Images=写真)
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