会社都合のサービスを客に押し付けない

その時、穐田は自らの経営の根本を再確認した。それが「ユーザーファースト」。自らが客の立場で考えることだ。会社の都合で作ったサービスを客に押し付けるのではなく、客が欲しいと思ったものを提供する。いつでも客の立場で考える。客がわからない言葉で話しかけることはしない。もし、彼がライターだったら「上梓する」なんて言葉は使わない。

カカクコムの社員が大資本、最新マーケティングのディールタイムを撃退できたのは彼ら自身が客であり、自然のうちにユーザーファーストの考えを持つことができたからだ。

カカクコムの社長をやっている間に穐田が作ったグルメサイトの食べログもまたユーザーファーストのサービスだ。投稿を元にした店舗情報であり、楽天ぐるなびのような店側の宣伝を載せたサイトではない。そこで、食べログはグルメサイトのデファクト・スタンダードになった。

くふうカンパニー代表の穐田誉輝さん
撮影=西田香織

クックパッドの社長になったのは2012年だ。それから4年間で同社を成長させた。この時もユーザーファーストを徹底した。

さらに、彼の経営の特徴は営業戦略を策定するとともに、チームを編成して、一気に攻勢をかけることにある。戦略を立てるだけではなく、同時に人事編成を行う。そして一気呵成にやる。クックパッドは考えた通りに伸びていった。

社長時代の最後の年には創業者との争いになり、追い出された形になった。だが、もともと辞める予定だったこともあり、クックパッドの事業部だった生活関連サービスの会社を切り出して独立した。それが、現在のくふうカンパニーのグループだ。彼にとってはこれまでの仕事の集大成といえる。

代表2人を「最下位」に据える理由

くふうカンパニーは現在、穐田と閑歳孝子が代表執行役で、番頭役をやっているのがCFO(最高財務責任者)の菅間淳だ。

くふうカンパニーのグループは全体で19社で、サービスのサイトは25以上。仕事の内容は6つの領域に関わっている。

デジタルチラシのトクバイ、家計簿アプリのZaimが入っている「日常、地域生活領域」、不動産情報のオウチーノが属する「住まい領域」、みんなのウェディングがある「結婚領域」、くふうAIスタジオが入る「デザイン/テクノロジー開発領域」、そして、「投資、事業開発領域」。最後のカテゴリーに入るのがくふうカンパニーの「経営管理領域」。

くふうカンパニー自体は事業会社の株を保有しているが、親会社とは名乗っていない。代表執行役が事業会社のトップに指示して、すべてのサービスをマネジメントしているのではなく、あくまで事業会社の業務を支援するための会社だ。

取材したビルから見える夏の風景
撮影=西田香織

番頭役の菅間はこんな説明をする。

「一般的なグループ企業って最上位にホールディングカンパニーがあります。その下に事業会社が連なり、ユーザーは末端にいます。

くふうカンパニーは違います。穐田がいつも言っているユーザーファーストが最重要の指針ですから、最上位はユーザーです。そして、ユーザーにサービスを提供するのが事業会社、くふうカンパニーは持ち株会社ですが、支援会社ですから、事業会社の下に位置します。なかでも最下位が穐田と閑歳です。あっ、でも、最下位のふたりを支援するのが僕ですから、つまり最下位よりさらに下の存在でした」

正しくは最下位の位置を3人が受け持っていると理解できる。