ティム・クックからの「ゾッとする」メール
リーダーに逃げ道はありません。自分が大きな失敗をしたら責任を取るのは当たり前ですし、部下のミスの責任を取るケースもあるでしょう。時には自分の何気ない発言や意思決定に足元をすくわれることもあります。だからリーダーには、常に緊張感が必要です。
私も外資系企業の社長だった時代は、いつも危険に身を晒していたような気がします。ひとつエピソードを紹介しましょう。
海外拠点から送られてくるメールで一番ヒヤッとするのは、他の人からのメールを無言で(送信者からのメッセージなしに)転送してくるケースです。転送メールに、ご丁寧にも「?」マークだけをつけて転送してくるものもあります。いずれも、送信者が怒っているか、少なくとも大きな疑問を持っています。
アップル・ジャパン時代のある日、私はこんな経験をしたことがあります。
あるアメリカ人の旅行客がスティーブ・ジョブズにメールをしました。
「スティーブ、日本ではiTunesカードをコンビニエンスストアで販売しているのか。アップルのファンとしてがっかりしたよ」
スティーブはこのメールを、アップルの最高経営責任者、ティム・クックに無言で転送。ティム・クックがそのメールに「?」をつけて私に送ってきたのです。想像しただけでゾッとしませんか。
スティーブ・ジョブズを納得させたメール対応
ご存じの通り、日本のコンビニエンスストアはとても清潔で、スタイリッシュです。ブランドを大切にするアップルの製品とはいえ、日本のコンビニで販売されていることに違和感はないでしょう。実際、私はコンビニエンスストアに頭を下げて売り場を作っていただいていましたし、販売実績もすばらしいものでした。
ただ、アメリカと日本では文化や価値観が異なります。スティーブとクックが「コンビニ=アップル製品を販売するのに似つかわしくない場所」と思っているのも仕方のないこと。なんとか事情を理解してもらわなければなりません。
私は考えた末、「コンビニはディズニーランドの次に訪れたくなる、日本の美しいスポットだ」と書かれた記事を彼らに送ることで事なきを得ました。あのときの対応がまずければ、私はアップルを追われることになっていたかもしれません。
ビジネスは自分の努力だけで進められるものではありません。うまくいかないこともたくさんあるでしょう。でも、そんなときにオドオドしているようではリーダー失格です。いつでも崖っぷちにいるような覚悟で、全力で仕事をする勇気を持ってください。