殻長8センチの巨大カタツムリを食べてみる

ここまでカタツムリと人との関わりを追いかけてきて、ようやくアフリカマイマイを食べてみようと思い立つ。それまでも、ちらりとそうした考えが浮かんだことはあったのだが、なかなか実際には手が出せなかった。

大学の理科室の裏につくっている、狭い畑に足を向ける。そもそもアフリカマイマイは衛生的とはいえないが、調理をするのなら、せめて畑の周りにいるものにしようと思ったのだ。案の定、あっさりアフリカマイマイが見つかる。殻長8センチとほどほどの大きさだ。

まずは、下処理。使い捨てのビニール手袋をはめた手で殻をつかみ、鍋に入れゆでる。湯が沸くにつれ、アフリカマイマイの身が縮まっていく。十分に加熱して寄生虫に感染する危険を避けたい。しばらくゆでると、湯はやや茶色がかる。

そろそろいいだろうと、お湯を捨て、ゆだったアフリカマイマイを水に入れて冷やした。冷えたところで、アフリカマイマイの足裏にピンセットを突き刺して殻から身を抜く。ずるずると、簡単に黒い色をした内臓が引き出される(図版1)。ピンセットを使って、足から内臓部をちぎり、捨てる。残った足を、鍋の水を替え、またゆでることにする。

図版1
図版1(『マイマイは美味いのか』より)

うまいとは言えないが、まずくもない

ここからは調理だ。ピンセットを箸に持ち替える。とにかく、足を念入りにゆでる。足はさらに縮んでしまう。まあまあの大きさのアフリカマイマイだったので、1匹あれば食べるのに十分だと思ったのだけれど、殻や内臓を取り除き、さらにゆでて縮んだ足だけになると、あまり食べるところがないかも、と心配になってしまう。

足の表面にはぬめりがある。箸で足を取り出し、塩を入れたカップに入れて少し揉み、水洗いをしてぬめりを取る。まな板の上に乗せる気がしなかったので、使い捨てができるように紙皿の上にゆであがった足を乗せ、包丁でスライスする。可食分として残ったものの重さをはかったら、わずか2.5グラムだった。

スライスした足の見た目は、干し椎茸や干しナマコを戻してスライスしたような感じだ。さて、仕上げである。ここで近所のスーパーに行き、ココナツミルクの缶詰を買ってきた。アフリカマイマイの調理をするなら、横井庄一にならい、ココナツミルク煮にすると決めていたからだ。ココナツミルク少々に水、そして塩をほんの少し入れて加熱する。足のスライスは、さらに縮む。

盛口満『マイマイは美味いのか』(岩波書店)
盛口満『マイマイは美味いのか』(岩波書店)

汁が煮詰まったところで火を止める。箸でつまんで口へ。まったく抵抗感がなかったといえば嘘になる。味はココナツミルクの味。つまり、足自体には味を感じない。薄くスライスしたこともあり、歯ごたえはあるが、ゴムほどひどくはない。ちゃんとかみ切れる。

見た目もそうだが、干しナマコを戻して調理したものを連想させる(ナマコよりは固い)。おいしいとはいえないが、ひどくまずいわけでもない。ただし、1食分のおかずにするには、何匹のアフリカマイマイを調理しなければならないだろうかと思う。2切れめを口にしたところで、残りのものは土に埋めた。

アフリカマイマイをおいしかったと語るうとぅすい(注)の方がいる。それは、そう感じざるを得ない状況があっての味の記憶だ。あらためて、そのことの意味を思う。

(注)お年寄りの意。

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