水泳の実技は必須ではない

そもそも、水泳の授業は小学校や中学校の教育課程上、どのように位置づけられているのか。

小学校では3・4年生において初めて「水泳」の文字が学習指導要領に登場し、「楽しさや喜びを味わい、その行い方を理解するとともに、その技能を身に付ける」ことが目的とされている。中学校でも「記録の向上や競争の楽しさや喜びを味わい、水泳の特性や成り立ち、技術の名称や行い方、その運動に関連して高まる体力などを理解するとともに、泳法を身に付ける」ことを目的とする水泳の授業が学習指導要領で挙げられているが、中学3年生では必修ではなく選択扱いとなっている。

ただし、小学校と中学校の水泳に共通するのは、「適切な水泳場の確保が困難な場合にはこれを扱わないことができるが、水泳の事故防止に関する心得については、必ず取り上げる」とされており、水泳を実技で取り上げなくてもよいとされている点だ。

スポーツとしての水泳か、水の安全教育か

水泳の授業が学校で行われることのきっかけとしてよく語られるのが、1955年にあった紫雲丸沈没事故である。修学旅行中の子どもたち168名が命を落としたこの事故が、「水難事故防止のための水泳授業」の普及に大きな影響を与えたとされる。

そうであるならば、水泳授業は泳法を身に付け、距離やスピード、フォームを競うのではなく、万が一池や川に落下した場合の自衛策を身に付けさせることに重点を置くべきことになる。つまり泳ぎやすい水着を着た授業よりも、着衣遊泳の授業がメインとなるべきことになるが、着衣遊泳は水泳シーズンが終わるタイミングで行われることが多い。衣服と靴を着用して入水した場合、その後に水質を調整する必要があり、さらには換水が求められることもあるからである。

6割以上が水泳指導に「自信がない」

このように、実際には水着を着て泳げる距離やスピード、フォームを競う水泳授業にほとんどの時間が割かれる。しかし、保健体育科の免許を持つ教員がいる中学校はともかく、小学校の教員は水泳指導ができるほどの専門性が担保されていない。実際に、小学校教員に水泳指導に対しての自信を問うた研究では、「〔自分の指導力に自信があると〕そう思わない」と「あまり思わない」を足した割合が63.1%にも上った(佐藤・池田2020)。

また、天候に左右されて年にほんの数回しか行われない水泳の授業で子どもたちの泳力はなかなか高まらない。その結果、学校の水泳授業のために、放課後スイミングスクールに通うということがなされる。