少子化は個人が悪いわけではなく、政治の問題

一方で、人口が減ること自体は悪いことばかりではないという考えもあります。ドイツ(8300万人)やイギリス(6700万人)、フランス(6800万人)などのヨーロッパの国は、日本より人口が少ないですが、日本以上の労働生産性(一人当たりの稼ぎ)を保っています。研究の分野でも、これらの国の論文数は日本よりも多いです。ただ現状では、日本の労働生産性も論文数も下がり続けています。このままの状態で人口だけ減っても、おそらくヨーロッパの国々のようにはなりません。イーロン・マスク氏の「日本が滅びる」は、実は言い過ぎでないのです。

米ツイッターを買収した実業家のイーロン・マスク氏(フランス・パリ)=2023年6月16日
写真=AFP/時事通信フォト
米ツイッターを買収した実業家のイーロン・マスク氏(フランス・パリ)=2023年6月16日

日本の若者の数が減り、学術も経済も停滞し、世界からどんどん取り残されているという暗い話をしました。ここでいつもなら、たくましく生きている生物の話をして盛り返すのですが、ヒトの少子化に関しては、生物で一般的に見られるような環境の変動による食料不足や天変地異による生活空間の減少、外来種による捕食などによる外的な要因等で引き起こされたわけではなく、自分たちの都合で子供を増やさなくなって「勝手に」減っているので、生き物の絶滅などとは訳が違います。

もちろん個人が悪いのではなく、ヒトは社会性の動物なので、日本の社会の在り方の変化が原因です。この後お話しするように、少子化の解決策はいくつかあります。それをやるかやらないかは、政治の問題であり、政治家を選ぶ私たち国民にかかっています。実際にフランスのように少子化対策に成功している国もあるわけですから。

キャリアも大事だが、ライフイベントは先送りできない

私は、大学の女子学生から「研究者になっても結婚したり子供をもうけたりできますか」と相談を受けたことがあります。研究者に限らず、ある程度の「競争がある分野」では、同様の心配を抱えている方は男女問わず多いと思います。

私の答えは決まっていて、どんな職業についても、チャンスがあれば我慢せず、まずそちら(ライフイベント)を優先しましょう、です。ライフイベント(出産、子育て、介護など)は先送りできません。つまり後回しにはできないのです。それでもし、仕事に不都合が生じた場合は、その会社や社会の制度が悪いのです。そちらのほうをみんなで一緒に変えていきましょう。

言うのは簡単ですが、実際には「世の中を変える」のが簡単ではないことは、よくわかっています。ただ「簡単ではない」を理由にこのまま何もしなければ、どんどん悪くなっていき、本当にこの国は「終了」してしまいます。