どこでネズミを手に入れていたのか
この本が刊行された頃は白鼠が手にいれやすくなっていて、売られていたのは上品だが、奇品とはされない目の赤いアルビノの白鼠だったと考えられる。まだ奇品の斑鼠は数が少ないので、簡単に手にいれられない。
そこで、養鼠家の中でも好事家たちは、仲間内(連)の品評会などで互いのものを見せ合って情報交換を行い、奇品鼠の取引を行っていたらしい。
巻末に、品評会の場でもある「大坂鼠品売買所」として5つの店舗名が住所とともに掲げられている。そこでは、「常の鼠」である愛玩用の白鼠のみならず、「奇品鼠」にも値段をつけて販売を行っていたようだ。「奇品を得たいなら、この売買所において、その値段を決めるべき」と書いていることからわかる。
価値が高かった6種類
同書では、白鼠の中でも目が黒いものが奇品とされているのだが、さらにそれ以外で次の5種類を挙げている。
「熊鼠」(同斑、熊の豆鼠):総体が真っ黒で、胸に熊のような月の輪がある。
「豆斑」(豆の斑、白の豆):約3センチほどの大きさ。2種類がある。
「斑鼠」(はちわれ、鹿斑):白黒の斑で、はちわれは頭から半身白黒と分かれているもの。鹿斑は大鼠で鹿のような模様がある。
「狐斑」:腹が白く尾は短い。狐色、玉子色、薄赤、藤色、かわらけ色などがある。
「とつそ」:丈が短く、尾も短く、顔は丸く、耳は小さく、鼻口部は丸く、毛並みが荒く、鳴き声が「ちっちっ」と聞こえる。
これらは、いずれも大坂近郊の養鼠家によって作出されたもので、大まかに、
①毛色の珍しいもの:熊鼠、斑鼠(斑、はちわれ、鹿の子)、狐鼠
②形や大きさが通常とは異なったもの:豆斑、とつそ
と分けられる。もっとも、後世の本に記載されていない品種もあり、奇品は一代限りなので、作り出されても維持する(同じ特徴の子孫を続ける)ことが困難であったようである。