「いつでも質問してこい」というやさしいまなざしを持つ

アカデミー賞作品賞を受賞した『アルゴ』という映画がありました。

この映画は、老人の存在について多くの示唆を与えてくれます。

ストーリーは、イランの首都テヘランで起きたアメリカ大使館人質事件と、その裏で敢行されたCIA(アメリカ中央情報局)による救出作戦の行方を追いかけたものです。

人質になったアメリカの大使館職員を救い出し、イラン国外に連れ出すために、CIAは架空の映画を作るという作戦をとります。「アルゴ」とは、架空のSF映画のタイトル名です。

この計画に、ハリウッドの特殊メークのプロと映画プロデューサーが参加します。2人は60歳を過ぎています。

業界でそれなりの実績と地位を持った2人が、若きCIAエージェントと組んで、専門家として見事に救出のための仕事をやり遂げます。「やっぱりベテランは違う」とその安定感に拍手を送りながら映画を観た人も多いと思います。

2人のベテランは、若きCIAエージェントを時に恫喝し、時にやさしく肩を抱き、説得していくのですが、その姿はまさに各駅停車の速度でした。

逆に若いCIAのエージェントは上司にぶつかりながら行動していきます。その突破力は若者ならではです。おたがいが補完し合いながら、とてもいいバランスでこの計画は実行され、成功します。

この話はフィクションではなく、事実なのです。「若者と老人」という関係に潜む大きな可能性を示す作品でした。

老いの領域に入った今こそ、若者たちにゆっくり歩く姿を見せることが重要だと思います。

でも60代のあなたがすべき生き方は、自分から「教えること」ではないと思います。

聞かれたら答えること。それでいいはずです。いつでも質問してこい、というやさしいまなざしを持つことです。そこには孤独の影はありません。

自分の意見を述べるスーツを着たマネージャー
写真=iStock.com/maroke
※写真はイメージです

人の性質は年齢で単純に分けられない

「最近の若い人が考えていることはわからない」

思わずこういう言い方をしたことはありませんか。でも、違う世代の考えることがわかるほうが、じつはおかしいとは思いませんか。

かつてあなたも若者だったときは、年配者から同じことを言われたはずです。

だからぼやくこともないわけです。紀元前のギリシャでも年配者たちは同じように「若者の様子」を愚痴っていたという記録が残っています。

若者でも年配者のように考える人がいますよね。逆に年齢に関係なくいつまでも挑戦心を失わない人がいます。

つまり人は年齢で単純に分けられるものではないということです。

『最強のふたり』というフランス映画があります。日本でもヒットしました。

ご覧になっていない方のために少しストーリーを説明しましょう。

不慮の事故で全身麻痺になってしまった、大富豪の男性・フィリップ(50代半ばを超えています)が、自分の世話をしてくれる男性を探します。下の世話までしなくてはならないという仕事です。お金持ち、障害者ということもあって、かなりわがままな頑固おやじという設定です。

面接にやってきたのは、スラム街出身の黒人青年・ドリス。彼はフリーターで、現在無職です。失業保険の申請に必要な不採用通知をもらうことが目当てでした。

そんな動機ですから、真剣に面接を受けようなどという気持ちはまったくありません。身体障害者の世話をするというのにもっとも向かないタイプの人間です。

意外なことにフリーターの若者は採用されます。頑固おやじとフリーターの若者との心の交流を描いた物語なのですが、この話は実話を元にしています。

なぜ、彼が選ばれたのでしょうか?

フィリップが言います。

「彼はわたしのことを特別扱いしなかった」

それが理由だったのです。

障害者だから、金持ちだから、という視点が青年にはありませんでした。ただただ、雇い主を人間として見てくれる。それが男性にはうれしかったわけです。

そうして、年齢もこれまでの環境も異なる2人が、お互いを認め合い、友情を育んでいきます。