誰も調査をせず、状況を把握してこなかった

日本におけるギャンブル依存の高さの原因の一つには、これまでギャンブルと依存の関係がきちんと研究されてこなかったこともあるという。

東京大学の米本昌平客員教授は「これまでは、ギャンブル依存に至る実態については、だれもまともに研究してこなかった。スイスでは、カジノ導入の際、入念に調査をした上で十分に議論し、連邦の賭博法として施行した。そこには、賭博の主催者がとるべき措置や、依存症などの危険防止についてまでも詳細に記されている。日本でも、今後の政策立案の根拠になるように、学術的な研究に取り組むべきだ」と指摘する。

さらに、1960年代から70年代の公害問題を例に挙げて、こう付け加える。「当時の環境学者で公害問題研究家の宇井純さんは、環境汚染は単に規制をする前に、しっかりと調査をすることで、不思議ときれいになっていくもの、と指摘していた。今まで、だれも調査をせず、きちんと状況を把握してこなかったことも、現在のギャンブル問題を大きくしている」

カジノで彼のお金を失う男
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ギャンブル依存をなくすために必要なこと

2020年2月、20年度の診療報酬の改定が決まり、「ここに来て」というか、「このときだから」というか、ギャンブル依存の治療に保険が適用されることが決定した。

昭和大学附属烏山病院の常岡俊昭医師は「ギャンブル依存が精神疾患であることを、国が認定したことは大きい。患者・家族だけでなく、精神科の医療従事者への啓発としての効果も期待できます」と歓迎する。

一方で、「ギャンブル依存の治療には、自助グループや回復施設のほうに実績があります。診療報酬がつくことで、医療機関が患者を囲い込んだり、自助グループの力を衰退させたりする方向に進んではならない」と、保険適用となったことへの懸念も話す。

ギャンブル依存に対する医療の役割は、川の流れに例えると、もっとも下流における対処だ。本当に必要なのは、もっと上流で「大人が良識の範囲で楽しめる順法的なギャンブルの存在」「依存しそうな人を、事前に救済する仕組み」「反社会勢力に金が流れ込まないような構造」をつくること。そのために、日本の独自性を考慮しながら時間をかけて調査を行い、現状をきちんと把握することが、まず必要なはずだ。