薬剤師による処方薬チェックがないリスク

往診サービスでは、薬の間違いがないかどうかも懸念点です。例えば小児科に限らずクリニックや病院での診療では、医師が処方し、薬剤師が年齢や体重や飲み合わせなどを確認するという二重のチェックを経てから、患者さんが薬を受け取ります。しかし、往診サービスでは、医師が手持ちの薬から処方するため薬剤師のチェックを受けません。だから、子どもに適さない薬を処方したり、用法・用量を間違えたりしても気づきにくいでしょう。

少し前に往診サービスを提供する会社が、SNS上にアップした複数のPRマンガに、小児では使うはずのない薬とその用法・用量を例示していました。PRマンガ自体の確認体制に不備があったと謝罪されていましたが、医師としては不安を感じます。実際、ほかの小児科医から、上記とは違う往診サービスで子どもに使ってはいけない薬を処方した事例を聞いているからです。

また、私のクリニックを受診したお子さんの保護者が「昨日、往診サービスを受けたんです。でも家に来てくれたお医者さんが、薬が足りないからと本来の3分の1の量の薬を1日分しかくれませんでした」と話されたことがありました。とても驚いて処方を確認すると、確かにそのお子さんの体重からすると3倍飲まないと効果を望めない量でした。他の患者さんでも「往診サービスの医師にシロップ薬しか飲めないと伝えたのに粉薬しかくれなかったので、シロップ薬を処方し直してください」と言われたこともあります。

薬の処方
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自己負担がなくても医療費は増大している

そして往診サービスでは医療費が高額になることも知っておきましょう。以前、某ニュースで、新型コロナになった患者さん宅に区が連携する往診サービスの医師が行くという取り組みを紹介していたのですが、「診察や薬の処方などがすべて無料」と報道されました。でも、実際には医師が無料で働いているわけではありません。新型コロナの治療には公費――つまり税金が使われています。

どの往診サービスでも、ウェブサイトに「健康保険が適用されます」「乳幼児医療証が使えます」と書いてあります。健康保険でも治療費の約3割は自己負担になりますが、約7割は被用者保険や国民健康保険が負担します。そして多くの市区町村で、乳幼児には医療証がありますから、残りの3割を市区町村が負担しています。やはり税金が使われているのです。

往診サービスのアプリで会員登録すると医師の交通費が無料になるものがありますが、これも医師の持ち出しではありません。往診加算などで、交通費を無料にしても見合うほどの収益が会社にあるからです。往診サービスを利用した場合の緊急往診加算などの医療費増加分も、保険加入者と市区町村の税金でまかなわれます。

つまり、たとえ本人負担がゼロかごく少額でも、医療費は通常以上にかかっているのです。日本では医療費増大が問題になっていますが、たくさんの人が往診サービスを利用したら医療費はますます増大し、国民皆保険制度の崩壊または増税にもつながりかねません。ですから利用することは悪くありませんが、安易に往診サービスを選ばないようにしましょう。