地政学とは「人間の世界観を巡る戦い」

ランドパワーとシーパワーの地政学を説明する上で、まず押さえておくべき点は、両者の世界観の違いです。

東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授であり、国際政治学者の篠田英朗氏は、地政学とは「最終的には人間の世界観を巡る戦いである」と指摘しています。どちらの地政学にしても、「人間の理性の働きをどうとらえるのか」という二つの異なる思想に基づいて成り立っているからです。

では、理性とは何か。理性とは、みなさんもご存じの通り、人間に備わっているとされる知的能力であり、人類を発展させる原動力にもなりました。

理性は、神に匹敵する能力なのか、そうではないのか? 人間がいかに理性を持っていたとしても、人間はやはり不完全であり、神ならざるものか? この問いに対して、哲学者たちは長年にわたって議論を続けてきました。

地政学のシンボル、チェスの遊びで世界地図からチェスボード
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ルソーは「国民の一般意志は正しい」と説いた

18世紀の哲学者であるジャン=ジャック・ルソー(1712-1778)は、『社会契約論』の中で、誤解を恐れずに言えば、「人間は神のように賢い存在だ」と述べています。

人民とは一般意志を持ち、一つの主権者である。そのような理性的な意志を持つ一人ひとりの国民の集合体が国家であり、その一般意志は必ず正しい。ゆえに、行政はこの国民の一般意志に従うべきであるとルソーは結論づけました。

権力者である王を頂点として成り立つ絶対王政が当たり前だった当時において、こうしたルソーの考え方は非常に画期的であり、多くの国民の共感を呼びました。その結果、民衆たちが蜂起し、国内では数々の暴動が起こり、フランス革命へとつながっていきました。

さて、このルソーの思想を引き継いだのが、18~19世紀に活躍した哲学者のゲオルク・ヴィルヘルム・フリードリヒ・ヘーゲル(1770-1831)です。ヘーゲルは、国家は個人の寄せ集めではなく、個人という独立する細胞を持つ一つの有機的組織であるという「国家有機体説」を提唱しました。その中で、「すべての部分が同一性へと向かわない場合、一部分が独立したものとして定立される場合には、全部が滅亡せねばならない」とも定義づけたのです。