畑村式文章術

工学院大学教授
東京大学名誉教授
畑村洋太郎

1941年、東京都生まれ。66年日立製作所入社。68年東京大学工学部助手。83年同教授。2001年畑村創造工学研究所開設。著書に『技術の創造と設計』『みる わかる 伝える』ほか。

私は工場や大きなプロジェクトの現場をよく見学に出かけます。そこで得た知識や知見は、「印象記」という形でアウトプットして記録・保存しています。

2010年には、08年前に起きた岩手・宮城内陸地震の被害現場を4日間かけて見学して、印象記を作成しました。ただ、これらの印象記は、著書や講演で材料として活用することはありますが、発表する予定があって作成するわけではありません。目的は、あくまでも自分の知見を深めるためですから。

誰かに見せることを前提としていませんが、書くときは人に見せても伝わるように整理します。第三者が見ても理解できるということは、観察した事象を自分がきちんと抽象化・知識化できているということを意味します。抽象化・知識化していない雑記は、単なる感想文。知見と呼べるレベルまで高めてこそ、あとで自分の仕事に活かすことができます。

見学時は、メモをほとんど取りません。印象記を書くのも、見学のあと1週間から10日経ってからです。記録が目的の1つであるのに、なぜメモを取らないのか。メモしなければ忘れてしまうような情報は、それほど価値のある情報ではないからです。逆に言うと、問題意識を持って観察すれば、必要な情報は時間を経ても頭に残っているはず。残った材料だけで、十分に知見を深められます。

(村上 敬=構成 相澤 正、熊谷武二=撮影)
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