仕事で大きなミスをしかねない
徹夜などによる短期的な睡眠不足には、誰でも対処しようとします。「今日は早く寝よう」「お風呂にゆっくり入って、体を温めよう」「お酒はやめておこう」など、今できる精一杯の工夫をするでしょう。「徹夜で疲れた」「頭も体も回復させたい」と切実に感じ、明日も脳を最高の状態にしてバリバリ働きたいと思うからです。
こうした短期的な睡眠不足には気づきやすいのですが、中長期に及ぶ慢性的な睡眠不足には気づきにくいものです。そのため、集中力が低下している状態にも気づきにくく、そのまま仕事や作業を続けていると、ミスやヒヤリハットが発生しやすくなります。やり直すチャンスがあるならば挽回もできますが、とり返しのつかない事故を招いてしまうようなケースも実際にはたくさん起こっています。睡眠不足による脳のパフォーマンスダウンを自覚できないことは、とてもリスキーだといえるのです。
集中力は、仕事や学業で結果を出すために欠かせないものだと、みなさんよくご存じだと思います。ただ、パフォーマンスが高い人のことを「あの人は集中力がある」という言い方をすることもあり、集中力とは生まれつきの能力のようにとらえられている面があるのではないでしょうか。しかし、そうとは言い切れないようです。
私はこれまで、子どもたちの睡眠を改善するための「みんいく」(睡眠教育)を行ってきました。その実践研究を通してわかったのは、睡眠と学習への意欲や集中力には相関関係があるということです。
実践研究の詳細は後述するのでここでは簡単に触れますが、自分が「何時に寝て何時に起きているかを知る」だけで、日々のパフォーマンスがよい方向へ変化します。みんいく調査実施中学で、みんいくを始める前の年と、みんいくに一年間取り組んだ年を比較したところ、「授業に集中できている」と肯定的にとらえた生徒は、1年生で72.5%から85.5%に、2年生で72.5%から78.3%、3年生で77.1%から81.5%に改善しました。
これまで教育の現場で子どもたちを見てきた立場からも実感できるのですが、日々の過ごし方によって発揮できる集中力は大きく変わってきます。集中力を生み出す重要な基盤が睡眠であることが、調査で浮き彫りになったのです。
睡眠不足の4つのサイン
子どもの学習への意欲や集中力と睡眠との相関関係と同じことが、大人にもいえます。
朝、会社に着いた時点でもう眠いという経験はないでしょうか。それは明らかに睡眠不足が慢性化している証拠です。そのような状態で仕事に打ち込んでも、集中力不足、パワー不足で本来の力を発揮するのは難しいでしょう。
そこで、まずみなさんに実践していただきたい最初のアクションは、ご自身の睡眠不足をチェックすることです。慢性化すると気づきにくい睡眠不足ですが、昼間の生活から寝不足のサインをチェックできます。睡眠不足のサインには、次の4つがあります。
①朝起きてから4時間後に眠気がある
②昼間にだるさ、しんどさを感じる
③電車や車の中で居眠りをする
④休みの日に普段より2時間以上長く寝る
①「朝起きてから4時間後に眠気がある」に当てはまる人は、かなりの睡眠不足と考えられます。一般的に、起床4時間後というのは強く覚醒している時間帯だからです。おそらく朝の目覚めがスッキリしない状態のまま仕事や作業に取り組むため、午前中の頭の働きに支障があるうえ、②「昼間にだるさ、しんどさを感じ」やすくなります。
そうすると、③「電車や車の中で居眠りをする」といったことも日常化します。この③は国際的な眠気尺度であるエプワース眠気尺度の一つで、「座って人と話していると眠気がある」「座ってテレビを見ていると眠気がある」などもチェックポイントになります。
そして、④「休みの日に普段より2時間以上長く寝る」が習慣になると、後述しますが、睡眠にとってたいせつな「リズム」が狂い、さらに睡眠不足の悪循環に陥ってしまいます。
「たかが睡眠不足」が、慢性的な集中力不足を招きます。それは、集中力だけにとどまらず、脳の働き全体の低下につながっていきます。今まで当たり前と思ってきた日常の行動を見直し、少し意識を変えるだけで気づけることもたくさんあります。今日という日を、毎日の睡眠を変えていくスタートにしましょう。