人間が良好なコミュニケーションをとれる人数

できることなら気の合う人ばかりと付き合いたいものですが、自分と気の合わない人とも何とかして付き合っていかなければならないこともあるでしょう。職場の同僚や取引先、学校のクラスメイトや近所の人、あるいは子どもの同級生の親など……。

たまたまそのとき偶然に巡り合った人と、時間を過ごさなければならないこともあると思います。

「茂木さん、相手を気遣いながら上手な人付き合いをする秘訣ってありますか?」

このようなことをよく尋ねられます。

そんなとき、私はよく「毛づくろいのポートフォリオ」の話をさせていただきます。イギリスの人類学者ロビン・ダンバー教授は、「ダンバー数の定式化」という興味深い研究をしました。

どんな研究かというと、サルの脳の大きさと、毛づくろいをする仲間の数がきれいに比例しているというものです。サルがお互いに毛づくろいをするという行為は、単に体毛の中の虫を捕り合うことを超えて、仲間との絆を深めるために重要な行為とされています。

グルーミングする2匹のニホンザル
写真=iStock.com/rai
※写真はイメージです

そして人間にとっても、そのような「毛づくろいに代わる行為」が必要なのだとダンバー教授は説いています。

では、人間にとっての毛づくろいとはいったい何なのか? コミュニケーションです。相手を気遣いながら上手な人付き合いをする。それが人間にとっての毛づくろいです。

ダンバー教授の研究結果によると、人間はおよそ150人と毛づくろいができる脳の容量を持っているそうです。つまり、私たちは150人と良好なコミュニケーションが築けるということでもあります。

気の合う仲間だけと付き合ってはいけない

ダンバー教授の研究結果を私なりに解釈し、運を引き寄せるためにあなたにお伝えしたいのは、この150人を「自分の気の合う人」だけで固めないほうがいいということです。

たとえば職場において、自分の好きな上司や仲間たちばかりで毛づくろいをしていたとすれば、良好な人間関係を築くうえで最適とはいえないでしょう。むしろリスクが高いといえます。

組織の中では全方位外交で関係するほうが、結局のところ有益な情報をもらえたり、困っているときに助けてくれる人がどこからか現れたりするものです。自分と気が合う人だけとの関係では、偏った情報ばかりで生きていくことになりますし、多方面から有益な情報を得られることも、助けてもらうことも期待できないでしょう。

特定の好みにもとづく関係の中で生きることは、短期的にはラクなように思えますが、長期的には危険を伴うものなのです。だからこそ、日頃から自分とは考え方や行動範囲が異なる人たちと触れあう機会をつくっておくことが、大切なのです。