「教養」の意味

そこで、脳科学者としてのアドバイスがあります。他者と完全にわかり合うのは不可能であっても、私たちの脳には元来、相手に共感しようとする機能が備わっています。

これには、神経細胞の「ミラー・ニューロン」が深く関わっています。ミラー・ニューロンとは、その名の通り「まるで鏡で見たように他者の感情や行動を自分が感じたり行動したかのように脳内で反応する」神経細胞のことです。

たとえば、目の前の相手が悲しんでいれば、なぜか自分も悲しい気持ちになる。相手の行動を脳内で「模倣」することで自分のこととして理解し、「相手がどう感じているか」を推測しようとするのです。

ミラー・ニューロンのこうした機能を生かし、他者の感情を汲み取ることが人生をよりよく生きる秘訣だといえるでしょう。

ただし、それを知っただけで相手とわかり合えるほど世の中は甘くありません。相手の感情というのは、見えないばかりかわかりにくいからです。

そこで必要になってくるものとは何か? 私は、それこそが養老先生がおっしゃる「教養」を磨くということだと思うのです。

「どうすれば他人の感情を知れるか」の最終結論

相手の感情を推し量るためには、自分が過去に学んだこと、体験したこと、それらすべての知識や経験を動員して考え抜く訓練が必要なのです。これには抽象的で類推的な思考訓練をすることが求められるわけですが、そのためには教養を身につけるのがもっとも手っ取り早いといえます。これが、脳科学者として私が出した結論です。

なお、ここでいう教養とは学力テストなどの点数で測れるものとは違います。広い意味で社会を生き抜くために学びを深めていくことが、人の気持ちを思いやり、他者を気遣える行為につながるのです。