「入口を押さえる」というしたたかな戦略
マーケティングにおける「したたかな戦略」の1つに、「入口を押さえる」というものがある。これは、スポーツ・習い事・趣味の「初心者から押さえる」や、ベビー・キッズ・ジュニアの「幼少期から押さえる」といったように、「入口」の段階で顧客にすることで、囲い込みを狙う戦略である。ユーザーではない時点から、ユーザーになり、リピーターになり、ファンになっていく道のりの入口に「関所」を設けるようなイメージが分かりやすいだろう。
「関所」を通らせることで、なかば強制的な誘導によって顧客化する「入口を押さえる」戦略は、顧客にとってベストな選択肢や状態を提供する「顧客志向」には当てはまらない場合も少なくない。必ずしも「ユーザー第一主義」とはいえない戦略だが、商品やサービスを広めるにあたって、有効な「したたかな戦略」であることは確かだ。
日本では、心のどこかで「本当に良いモノを作れば、自然に売れるはず」という古き良き時代の名残が、開発の現場でも、マーケティングの現場でさえも、今なお持たれていることがある。しかし、その結果、したたかな海外企業に競争で敗れる場面は増える一方だ。「良いモノ」だからこそ、しっかり普及させるための「したたかなマーケティング」を学び、自らも実践していくことは大切な一手である。
日本の紙おむつ市場を拡大したパンパース
P&Gの紙おむつ「パンパース」は、赤ちゃんが誕生する病産院という「入口」を押さえることで、紙おむつのトップブランドになっているヒット商品だ。
パンパースはアメリカに紙おむつを普及させたヒット商品として、1977年から日本での販売が開始された。当時、日本ではまだ布おむつが主流で、子供用紙おむつの普及率はわずか1~2%、市場規模は15億円ほどしかなかった。それが、パンパースの登場によって一気に市場を広げて、2年後には7倍以上の111億円規模にまで拡大し、そのうち90%のシェアをパンパースが独占する状況になった。
その後、日本のユニ・チャームが、当時のパンパースを徹底的に分析し、より優れた構造と素材の紙おむつ「ムーニー」を発売してシェアを奪い取ったり、大王製紙や花王が参戦したりして、日本の紙おむつ市場では激しい競争が繰り広げられながら、製品開発・改良競争とシェア獲得競争が続けられた。
2010年頃までライバルたちに先行を許していたパンパースだが、その後の10年で売上を2倍に伸ばし、2017年12月~2022年1月には50カ月連続で子供用紙おむつのブランド別売上シェアでトップの座を守り続けている。一度はトップシェアを奪い取られたパンパースが返り咲きに成功した背景には、3つのマーケティング戦略がある。