鎌田浩毅式文章術
文章に深みを加える事例やデータが欲しいとき、本は大切な情報源になります。このとき一冊を最初から最後までじっくりと味わうのは文系人の発想です。理系人なら目次に目を通してから、必要なところだけを効率的に読むでしょう。
ただ、即戦力の本ばかり読んでいると、自分の中にある知識の泉が枯れてしまいます。直近のアウトプットを念頭に置いて読む本は8割程度に抑え、2割程度は将来のための自己投資として古典を読むべきではないでしょうか。
古典は「解説」から読むことをおすすめします。古典を理解するうえで重要なのは、歴史上の位置づけです。どのような時代に生まれて、その登場によって人間の見方・考え方にいかなる影響を与えたのか。そうした背景がわかれば、本文の理解も早く進むはずです。
内容が難しいと感じたら、本棚に積んでおくだけでも十分です。いま内容を理解できなくても、10年、20年後、自分の置かれた状況が変わることで、突然、合点がいくことがあります。幸い、古典は時間を経ても腐りません。読みたくなったときすぐ手に取れるよう自分の本棚に常備しておくことが大切です。古典は引用の即戦力としても魅力的です。
いまも読み継がれる古典には、時代を経ても錆びない普遍的・本質的な言葉が書かれています。少なくとも多くの人が古典をそのように捉えているため、引用によって文章に一種の権威を与えることもできます。私はこうした引用テクニックを「虎の威を借る法」と呼んでいます。虎が強いほど効果は大きいのです。
(村上 敬=構成 相澤 正、熊谷武二=撮影)