中国アニメは世界市場で成長できるのか
当たれば大きなリターンが見込めるだけに投資額もすさまじい。今年公開の『ディープ・シー』は7年間にわたり1500人ものスタッフを動員し、宣伝費抜きの純粋な制作費で3000万ドル(約42億円)を投じたという。確かにその映像美は驚くべきレベルに達している。
前述の『ナタ~魔童降臨~』は10億元(約200億円)を投じて記録的な興行収入を打ち立てた。この成功体験がある以上、巨額投資によって、凝りに凝りまくった大作アニメを作るというトレンドはしばらく続きそうだ。動画配信サイトが財布のひもを締めたが、それを補ってあまりあるチャイナマネーがアニメ映画に注がれている。
こうなると気になるのは、中国アニメ映画がどこまで成長を遂げるか、だ。日本のアニメ映画は『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が日本市場以外の全世界興行収入で500億円を超えるなど次第に存在感を高めているが、資金面で上回る中国アニメがそれを追い抜く日は近いのだろうか。
おそらくはそう簡単にはいかないと、私はにらんでいる。というのも、中国アニメ映画は大きな“弱点”を抱えているからだ。
政治体制の影響で内容が画一的なものに
ヒットした中国国産アニメ映画は興行収入歴代1位の『ナタ~魔童降臨~』、歴代2位の『姜子牙』(邦題は『ジャン・ズーヤー:神々の伝説』)のように神話をモチーフにした作品か、『熊出没』や『喜羊羊と灰太狼』のような子ども向けアニメのシリーズ映画の2種類に分かれる。オリジナルストーリーの映画ではヒットは難しい上に、中国共産党の検閲を通すことは困難との判断もある。
神話といっても、「西遊記」あたりならばともかく、ナタや姜子牙(太公望)は北米や欧州での世界市場での知名度は低い。中国アニメ映画がさらに飛躍するためには、世界の観客が共有できるようなテーマで映画を作る必要があるが、検閲というハードルはあまりにも高い。
問題は中国共産党批判だけではない。過去にはアニメ『デスノート』が迷信を助長するとの理由で批判されたこともあった。また、戦闘シーンが過度に暴力的だと指摘されたこともある。検閲の壁にぶつかって、巨額の資金をつぎ込むアニメ映画が台無しになるリスクを考えれば、安全なテーマである神話から離れる判断はとりがたいというわけだ。
政治体制という重たいハンデを背負う中国アニメ映画は、果たして世界に飛び立つことができるのだろうか。