赤字に苦しむ動画配信サイト

アニメ産業レポート2017 サマリー版」はチャイナマネーの恩恵を強調しつつも、一方で中国は政治リスクが高く規制によって、「爆買い以前の状況に戻ってしまう可能性が高いことも忘れてはならない」と警告している。中国国産アニメ振興のために海外アニメを排除する動きが広がるのではないかとの懸念だが、冷え込みは意外な形でやってきた。それは動画配信サイトの“節約志向”だ。

前述のとおり、中国の動画配信サイトは大枚をはたいてコンテンツ獲得競争をくり広げていたが、コンテンツ制作費や配信権料の支払いは売り上げを上回る規模に達していた。赤字を垂れ流してでもシェアを取れ、トップになればいつか資金は回収できるというロジックだったわけだ。

だが、いつまでたっても競争は終わらず、赤字はかさむばかり。各社はシェアよりも利益をと戦略を転換するようになる。2020年末から始まった一連の中国IT企業規制によって投資マインドが冷え込んだことがこの転換の決定打となった。

中国・徳邦証券が2022年7月に公開したビリビリ動画に関する調査レポートによると、コンテンツ獲得費用は2021年第4四半期をピークに縮小へと転じている。総額が減少したばかりではない。アニメやドラマなどのプロ制作コンテンツにかける費用は年々減少し、かわりにユーチューバーのようなインフルエンサーへの支払いが増加している。2018年初頭時点ではコンテンツ獲得費用のうち6割強がプロ制作コンテンツで占められていたが、2022年初頭時点で3割を切るまでに減少した。

興行収入1000億円を突破したアニメ映画も

インフルエンサーの作った短い動画のほうが隙間時間に気楽に見られる。高額の投資でプロのコンテンツを作るよりも視聴者を集められるという構図は日本も中国も変わらない。

こうして日本アニメの中国での配信数は大きく減少した。同時に中国国産アニメへの投資と配信も減少している。子ども向けのアニメや昔から人気があるシリーズ物などはいまだに視聴者を集めるが、新たなコンテンツにはなかなか金が回らないのだという。

かくしてネット配信アニメはかつての勢いを失ったが、代わりに中国アニメを支えているのがアニメ映画である。2010年代後半から興行収入100億円超えの作品が次々と誕生している。とくに2019年の『哪吒之魔童降世』(邦題『ナタ~魔童降臨~』)は興行収入50億元(約1000億円)を突破し、中国映画市場歴代興行収入ランキングで4位という記録を打ち立てた。

動画配信サイトという“タニマチ”から金をもらうのではなく、チケットの売り上げで直接資金を回収する映画ならばまだまだ勝負はできるというわけだ。2023年のアニメ映画では『熊出没』が14億4000万元(約288億円)、『ディープ・シー(深海)』が8億8000万元(約176億円)、そして日本の『すずめの戸締まり』が8億元(約160億円)、『THE FIRST SLAM DUNK』が6億5000万元(約130億円)と、上半期が終わった時点で4作品が興行収入100億円超えを達成している。

中国・上海の映画館『THE FIRST SLAM DUNK』を鑑賞するファンたち
写真=Sipa USA/時事通信フォト
2023年4月20日、中国・上海の映画館で、日本の人気バスケットボール漫画のリメイクであるアニメ映画『THE FIRST SLAM DUNK』を鑑賞するファンたち