最低賃金を全国加重平均で1000円にすると「宣言」
さらに、賃上げに関して具体的な数値をあげて書かれている部分がある。最低賃金の扱いだ。「昨年は過去最高の引上げ額となったが、今年は全国加重平均1000円を達成することを含めて、公労使三者構成の最低賃金審議会で、しっかりと議論を行う」と書かれている。
昨年、2022年秋から実施された最低賃金の引き上げ率は全国加重平均で3.33%。骨太の方針が言うように、表面上は「過去最高」であることは間違いない。実は安倍晋三内閣も3%の賃上げを声高に要望し、財界首脳などにベースアップを働きかけるなどしてきた。2016年には3.13%、17年3.04%、18年3.07%、19年3.09%と、新型コロナウイルス蔓延前までは3%を達成していた。当時はまだデフレで、ほとんど物価が上昇していなかったので、実質的な最低賃金の引き上げが達成できていた。昨年の3.33%は実際には見かけ倒しで、物価上昇率を差し引いた実質では安倍内閣時に及ばない。
それもあってか、今年は早々と、最低賃金を全国加重平均で1000円にすると半ば「宣言」しているわけだ。これは国や地方の審議会で決める建前だが、政府の意向がこれまでも強く反映されてきた。ちなみに、全国加重平均の最低賃金は現在961円。これを1000円に引き上げるとすると単純計算で伸び率は4.06%に達する。
公務員の人件費を増やすことは、国民の負担を増やすこと
物価上昇が4%を超えてきた中で、それを上回る賃上げを主導するには、今年の最低賃金は4%以上の引き上げになるということだろう。
この「相場感」が8月の人事院勧告でも働くはずだ。おそらく「2000年以降、最高の賃上げ率を勧告」といった見出しが躍るのだろう。
だが、本当に公務員から賃上げをすることで賃上げの「好循環」が始まるのだろうか。国の財政が赤字の中で、人件費を増やそうと思えば、いずれどこかで増税する他ない。そうでなくても防衛費の大幅増額などで財源としての増税が検討されている。また、こども子育て支援策を拡充するために、「第2の税」とも言える社会保険料率の引き上げなども検討されている。
つまり、賃上げの原資である歳入を増やすには国民の負担を増やす他ないのだ。当面は国債などの借金で賄えるにしても、どこかの時点で国民負担が増えれば、それは景気の足を引っ張ることになる。公務員給与の増額→財政赤字の拡大→増税→民間の利益縮小→消費の減退→景気悪化という好循環ならぬ「悪循環」に陥ることになりかねない。