退職金はどのように使うべきか。セゾン投信創業者の中野晴啓さんは「退職金で『住宅ローンの一括返済』をしてはいけない。仮に退職金を60歳で受け取ったならば、それを65歳までの5年間か70歳までの10年間をかけて、積立投資するのがおすすめだ」という――。

※本稿は、中野晴啓『50歳からの新NISA活用法』(PHPビジネス新書)の一部を再編集したものです。

お金と家の問題について話す男女
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退職金は「毎月の給料の先送り」である

前回から続く)

【心得その4】退職金はご褒美ではないことをしっかり認識する

「定年になって退職金が出たら何がしたいですか?」と定年間際の人に質問すると、「夫婦で海外旅行に出かける」とか「住宅ローンの残債があるから、それを返済する」といった答えが返ってくることがよくあります。

退職金は、長年、会社に貢献してきたことに対する報償というイメージが強く、実際に退職金を受け取った人たちも、「これまで頑張ってきたんだから、少しくらい贅沢をしよう」と思っているようです。

でも、この考え方は改めたほうがいいでしょう。

そもそも、退職金制度がなかったら、皆さんが現役時代に得ていた給料は、もっと高かったかもしれません。退職金は、いうなれば毎月の給料の先送りです。

要するに「今の仕事は大変だけれども、あと10年も頑張れば定年で退職金が受け取れるから、それまで我慢して働こう」という気持ちにさせるのが退職金制度なのです。

本当なら毎月、もっと多めの給料が受け取れたはずなのに、会社に対する忠誠心を持ってもらいたいがために給料の一部を先送りされているだけですから、これはご褒美でも何でもありません。定年までに受け取れるはずだった給料の一部に過ぎないのです。そういう気持ちを強く持っていないと、退職金を無駄に使ってしまうことになります。

住宅ローンの一括返済に回すべきではない

豪華客船で世界一周なんていうのも愚の骨頂ですが、特に退職金で避けてほしいことは、やはり住宅ローンの一括返済でしょう。

これは日本人の気質なのかもしれませんが、極端に借金を嫌がる傾向があります。特に住宅ローンを組んで持ち家を購入した人たちは、定年になった時点でも住宅ローンの残債を抱えていることに対して、かなりの不安を抱いているようです。その結果、定年後の生活を支える大事な生活費の一部になる退職金を全額、住宅ローンの一括返済に回してしまったりするのです。

でも、よく考えてみてください。これだけ超低金利が長期化した今の日本で、高い住宅ローン金利を払っている人は、恐らくほとんどいないでしょう。かつては変動金利型住宅ローンで年8%超の金利を付けていることもありましたが、それは1991年頃の、高金利時代の話です。

その後、デフレ経済の到来とともに、日本の金利はどんどん低下していきました。2007~08年にかけて、一瞬、住宅ローン金利は上昇したものの、基本的に2000年代に入って以降、住宅ローン金利は低金利のまま、横ばいが続いてきました。今、住宅ローンを抱えている人たちが支払っている金利は、1.5~2%程度のものでしょう。