ヨーロッパの主要都市50%超の世帯がシングル

アメリカ・ヨーロッパ

シングルの割合はアメリカのほうが高いから、「独身の日」が中国で始まったのは、ちょっと意外かもしれない。それでも、アメリカ人もすぐにこのイベントを楽しむようになった。

アメリカ版の「全国シングルの日」のイベントは、2013年の1月11日に初めておこなわれたことが確認されている。こちらでも、「ひとり」をあらわす「1」の重なる日だった。2017年には、9月の全国シングルズ・ウィークに合わせて変更されている。全国シングルズ・ウィークは、1980年代にオハイオ州のバカイ・シングルズ会議が初めて祝ったものだ。

「全国シングルの日」の発案者であるカレン・リードは、オンライン雑誌「シンギュラー・マガジン」のインタビューにこう答えている。

中国の「独身の日」から発想を得て、こちらでも「シングルの日」を始めました。これまでにない、新しいシングルを祝う日を始める必要があるとも思いました。時代が変わって、たくさんのことが変化しているんですから。

21世紀のシングルは、新しい人種です。こんにちのシングルたちは活気に満ちていて、人口統計的に多様で、考慮に入れなければならない一大勢力です。

「シングル」の定義は実に複雑です。自身の選択によってシングルでいる人たちもいれば、状況によってシングルになった人たちもいる。法的にシングルの人もいれば、象徴的な意味でシングルの人もいる。永遠にシングルで生きていく人たちもいれば、今だけの人たちもいる。ひとつのグループとしてシングルの人たちをまとめることは、非常に困難です。

こういう大きな、ほとんど解決不可能な問題にアプローチするとき、最良の方法は、細かいことは考えず、高く飛び上がって、声をそろえて叫ぶことだったりします。「私たちはここにいる!」ってね。それをもう一回やってみる。何度でもやるだけです(※3)

今からほんの20~30年前には、シングルであることを祝うなんて、想像すらできなかった。だが、その間に結婚という制度は根本的な変化を遂げ、それが現代社会のあり方をも変えつつある。

中国におけるシングルの日「光棍節」も、理由もなく突然出現したわけではない。中国の一世帯の平均人数は1947年には5.4人だったが、2005年には3.1人と急激に減少した。これは中国の農業社会から現代社会、そして都会的社会への変貌の時期と一致している(※4)

たとえば、今の中国の若い人たちは、子どものころには農村でおじやおばたちも同居する家に育ち、みんなで同じ農地で米作りをしていたとしても、今ではまったく異なる世界に生きている。おそらくは空気の悪い大都市の高層アパートメントの小さな部屋に住んで、毎晩遅くまで巨大な工場で働いているかもしれない。

実際、中国では2014年現在、6000万を超える世帯が単身世帯となっている。1982年には単身世帯の数は1700万だった。この間の中国の人口の増加は40%にすぎなかった(※5)

ヨーロッパでは、ミュンヘン、フランクフルト、パリなどの主要都市の50%を超える世帯がシングルだ(※6)。アメリカでは、1950年には成人の22%がシングルだったが、今ではその数字は50%を超えており、(※7)アメリカで生まれる赤ん坊の4人に1人は一生結婚しないと予想される(※8)

同時に、子どもが生まれる前に両親が結婚していることは、先進国では以前ほど当たり前のことではなくなっている。アメリカで、結婚している両親と暮らしている子どもの割合は、1960年代のはじめには87%だったが、2015年には69%まで低下している(※9)

2009年の流行語「草食男子」は一般に浸透

日本

シングルの台頭する世界の最先端といえる国は、おそらく日本だろう。

日本の国立社会保障・人口問題研究所による統計(※10)をみると、未婚の18~34歳の日本人のうち、交際している異性がいない人の割合は、男性では70%近く、女性では60%近くになっている。

この数字は、2010年と比較すると約10%の上昇で、2005年と比較するなら、およそ15~20%も高くなっている。それどころか、男性の約30%、女性の26%は恋愛をしたいとも思っていないと回答している。

また、セックスの経験のない人の割合は40%を超えている。

2006年、人気のコラムニスト、深澤真紀はある記事のなかで、女性と性的な関係をもつことに興味のない男性が増えているとし、このような男性を「草食男子」と名づけた。

日本語では、性的な関係への欲望を「肉欲」と表現することから、男性を「草食」と表現することは、その人が女性との関係をもつのに消極的であることを意味している。

また、「草食男子」の出現は、日本のそれまでの「男らしさ」の概念が根本的に破壊されたことを暗示している。奇跡の経済発展を遂げた戦後日本の、精力的で、繁殖能力の強い男性像が力をなくし、失われてしまったということだ(※11)

「草食男子」は2009年の日本の「新語・流行語大賞」トップ10に選ばれ、2010年には、すでにごく普通の名詞として受け入れられていた(※12)

流行語は短命に終わることが多いが、「草食男子」は今でも一般に用いられている。ある統計では、20代、30代のシングル男性の75%が自分は「草食男子」だと回答するまでになっている(※13)

このようなトレンドは、特に先進諸国では急速に広まっている。本書で詳しく述べるが、先進諸国では、シングルの増加の要因となった事柄が、ほかの地域よりかなり早くあらわれていた。

個人主義、大規模な都市化、長寿化、コミュニケーション革命、そして女性の権利を求める運動などのプロセスが、先進諸国では19世紀後半から20世紀前半にかけてすでに根を下ろし始めていたのだ。

このようなトレンドに対して、短期的に例外の動きがあったのが、アメリカだ。第二次世界大戦と郊外の発展の後、1950年代に短い「黄金時代(ゴールデンエイジ)」がもたらされたが、この時期の人々は早く結婚し、出生率が上昇した(※14)

しかし、1970年代になると、シングルのライフスタイルがふたたび勢いを増してきた。社会のなかで大量消費主義や資本主義にもとづいた個人主義が強調されるようになり、アメリカ、ヨーロッパなどの先進諸国に広まったためだ。

出典:国際連合(United Nations)経済社会局人口部 2015年 世界の結婚に関するデータ(POP/DB/Marr/Rev2015)
出典=国際連合(United Nations)経済社会局人口部 2015年 世界の結婚に関するデータ(POP/DB/Marr/Rev2015)

こうして、人々はふたたび結婚から遠ざかり、脱家族文化(ポスト・ファミリー・カルチャー)(「家族」という単位・枠組みにとらわれず生きようとする傾向)への志向が強まるようになった(※15)。国際連合(United Nations)のデータにもとづいた図表1の地図を見ても、シングルが世界的現象になっていることがわかる。

地図からわかるとおり、シングル増加の傾向は先進国で特に顕著だが、世界中で広がっている。南米や中東の国々だけでなく、アフリカ諸国でも、ここ数十年のあいだにシングル人口が増加している(※16)

インド、韓国、ベトナム、パキスタン、バングラデシュ、マレーシアなど多くのアジアの国々のデータからも、初婚年齢が上がり、離婚が増えるとともに、ひとり暮らしを選ぶ人が増えていることがはっきりわかる(※17)

実際、多くの国で統計上、最も増えているのはシングル人口だ(※18)。これらを踏まえると、ある研究報告が2030年までに世界のシングルの割合が20%も上昇すると予測しているのも驚くべきことではない(※19)