今年4月、鳥取市で「書店員の聖地」と呼ばれた名物書店が閉店した。全国各地で急速に姿を消している「町の本屋」。この動きは地域にどのような影響をもたらすのか。ノンフィクションライターの三宅玲子さんが取材した――。

「書店員の聖地」と呼ばれた名物書店が閉じた

6月25日、私は鳥取県立図書館にいた。定有堂書店という鳥取の名物書店の閉店を惜しむイベントが開かれるのだ。書店の閉店を図書館が惜しむというのは、きわめて珍しい。

定有堂は4月に43年の営業を閉じた、書店員の聖地と呼ばれた独立書店だ。そして図書館が主催するフォーラムに、店主の奈良敏行さんが登壇することになっていた。

演題は『定有堂書店「読む会」の展開 ―街の読書運動の可能性―』。

筆者は2019年秋から1年半ほど、全国の独立書店をめぐる連載のため、北海道から九州まで書店を訪ねた。その取材をもとにした本をこの秋に出版する準備をしている。

本を求める人たちの場所をつくってきた店主

定有堂書店を初めて取材したのは2020年1月。鳥取県に足を踏み入れるのも初めてだった。鳥取県の人口は53万8850人(令和5年6月1日現在推計)。47都道府県でもっとも少ない。

1980年の開業以来、奈良さんは人文書に注力した選書、「読む会」という名の読書会、ミニコミ誌「音信不通」の発行を通して、本を紹介し、本を求める人たちの場所をつくることに尽くしてきた。

定有堂店主の奈良敏行さん
筆者撮影
定有堂店主の奈良敏行さん

事業を終えることを奈良さんが明らかにしたのは今年2月末。体調に問題が見つかったことによる。その日、レジ脇に貼り出した「閉店のお知らせ」を見た常連客のツイートが一気に拡散され、地元の定有堂ファンはもとより、書店や出版社など関係者が、感謝と惜別を伝えようと全国から訪れた。

店内に貼り出された「閉店のお知らせ」
筆者撮影
店内に貼り出された「閉店のお知らせ」