終わりのない者に、希望を持たせること

だが、無期懲役囚だけは例外だったと入口さんは言う。

「悲しいかな、無期の者に対して、そういう結果があったという思い出はないんですね。本当に、あまりいい表現ではないんですけれども、巡り会いたくないですね。仕事として抱えるのは、できれば避けたい」

入口さんは少しうつむいた様子で、こう語る。

「本当に終わりのない、『この日まで頑張ったら』っていう有期刑の者とは明らかに違うので。終わりのない者に、希望を持たせること、人生の目標を持たせるようなことをして、更生に導くことはできなかったと思います」

いつになれば出られるのか、見通しが立たない中で「仮釈放を目指して、とにかく規則を守れ」という言葉は、無期懲役囚には通用しない。

また、無期懲役囚は少しでもトラブルを起こせば、仮釈放の延期にかかわるかもしれず、刑務官も気を遣わざるを得ない。安易に「仮釈放できる」などといって期待を持たせすぎると、後になって絶望し、自暴自棄になることもあるという。

血まみれの喧嘩をした受刑者は無期懲役囚だった

入口さんは、先輩の刑務官から「無期懲役の受刑者が何かトラブルを起こしたときは、短期刑(有期刑)の受刑者と比べて、ただごとでは済まない結果を招くことが多い」と言われたこともあったという。

実際に、先の血まみれになって喧嘩していた受刑者は2人とも無期懲役囚だったという。最初は単なる口喧嘩だったが、殺し合いに発展しかねない。閉ざされた空間で、終わりの見えない生活を送っていると、当然のことながら人間関係などでストレスを抱え込むことになる。

入口さんは我慢に我慢を重ね、その限度を超えたとき、まるで火山が噴火するかのごとく、エネルギーが怒りとなって一気に放出したのだと推測する。無期懲役囚の挙動をコントロールすることはできないという、入口さんの話を裏付けるように、別のある刑務官は私にこう話した。

「無期懲役囚は、入所当時は自暴自棄からなのかトラブルを起こしがちだが、ある程度の期間が経つと勝手におとなしくなる傾向があるように思います。それが環境への適応なのか、諦めなのか、あるいは立ち直ろうという気持ちの芽生えなのかはわかりませんが……」

刑務官として意識的に働きかけ、無期懲役囚を立ち直らせるのは容易ではないようだ。