自ら立ち直ろうと心を入れ替え、仮釈放された人たち

しかし、実際、私たちが取材を進める中では、自ら立ち直ろうと心を入れ替え、仮釈放につながった無期の受刑者が何人かいたことも確かだ。たとえば、『日本一長く服役した男』第6章で話を聞かせてくれた片山さん(仮名)がそうだった。彼にとって、立ち直りのきっかけになったのは刑務官の一言だったというのだ。

また、A(※61年間服役していた80代の男)を知る松下さん(仮名)も、刑務官の存在が転機となったと証言していた。松下さんは、強盗殺人の罪で無期懲役囚として服役し、Aの仮釈放から3週間後に同じく熊本刑務所から仮釈放された。その服役期間は56年。2022年までの公開記録では、いわば“日本で二番目に長く服役した男”だ。

松下さんも20代で収容された直後は、所内で何度も「事故」(刑務所内での規律違反のこと)を起こし、懲罰を受けていたという。

「刑務所の中では立場上、刑務官が“敵”になるでしょ。受刑者の間でも話す話題と言ったら、『あの刑務官はダメだ』など、職員の悪口ばっかりですよ。しばらくの間、何回も“事故”を起こしました。担当の刑務官に暴言を吐いたり、石を投げつけたり。『もうどうにでもなれ』とやけになって、殴りつけたこともありました。今思うと、自分でも手に負えないやつだったと思います」

刑務官の言葉や態度に立ち直るきっかけを見出す

松下さんは、仮釈放による社会復帰などをまったく考えることができなかった。一時は自暴自棄になったほか、幻覚や幻聴の症状も現れるなど、精神に異常をきたし、医療刑務所に移送されたこともあるという。

しかし、そんな松下さんの転機となったのも“おやじ”と呼ぶ担当刑務官の存在だった。

杉本宙矢、木村隆太共著『日本一長く服役した男』(イースト・プレス)
杉本宙矢、木村隆太共著『日本一長く服役した男』(イースト・プレス)

「一人だけ真剣に声をかけてくれた“おやじ”がいたんです。『俺がちゃんと面倒見るから。俺の言うことは聞けるか?』と言われたんですね。『やってみます』と言ったけれど、最初は半信半疑でした。口先だけなら誰でも何とでも言えますから。けれど、この人は違った。自分の持ち場を離れた場所でも、他の刑務官に自分のことを、頼み込んでくれた。それ以来、職員とも口論もしなかったし、周囲の受刑者たちと喧嘩もしませんでしたね。18年間の無事故。そうしたら、仮釈放の面接があったんです」

彼らの証言から示唆されるのは、刑務官が無期懲役囚をコントロールして改善更生させるのは難しいが、受刑者は自らの内面に何らかの変化が起きているときに、刑務官の言葉や態度に立ち直るきっかけを見出す可能性はあるということだ。刑務官のどんな振る舞いが、どのタイミングで無期懲役囚を更生に導くかはわからない。だが、受刑者にとってその振る舞いが「希望」として映り、安心して変わろうと努力できる環境が整えられるならば、立ち直りは不可能ではないのかもしれない。

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