なぜ「歴30年」のベテラン運転手が多いのか
現場のトラックドライバーに取材し続けてつくづく感じるのは、20~30代のドライバーが極端に少なく、50代以上の「この道30年」といったベテラントラックドライバーたちが非常に多いことだ。実際、大型トラックドライバーの平均年齢は50歳。他産業より6歳ほど高い。
これが意味するところが分かるだろうか。
現在50代以上のベテランドライバーが働き始めたのが、まさに1990年前後。彼らの多くは、この業界に「稼ぎたくて入ってきた」人たちが多いのだ。
彼らが若かりしころに、まさに「24時間働けますか」なる言葉が流行り、それに「はい、働けます」とした人たちがトラックドライバーになったのである。
そんななか、労働時間だけにフォーカスした労働環境改善が行われると、トラックドライバーの給料はガクンと減る。彼らの多くが、「歩合制」(働いた分だけ給料が増える仕組み)で働いているからだ。
彼らから「長時間労働」に関する文句が出ず、むしろ「労働時間を短くするな」という声が出るのは、こうした背景があるからだ。
「トラックが好きだから」
トラックドライバーから長時間労働に対してあまり文句が出ないのにはもうひとつ理由がある。他でもない、「トラックが好きだから」だ。
集団行動が苦手でも、ひとりコツコツ距離を稼ぎ、絶景や絶品に触れながら仕事ができる。それがトラックドライバーなのだ。
運転や旅行がもはや趣味である彼らにとって、仕事とプライベートの境は限りなく薄くなる。だから労働時間が長くなろうが、“プライベートな時間”が減るわけではないため、不満も出ないのだ。
実は個人的には、この公私混同を何とかしたいと思っている。労働環境の改善には公私を分ける必要があり、また、こうした環境によって事故は起きるからだ。
しかし、現状トラックドライバーの現場は「公私混同しないと物流が回せない環境」なのである。正直、トラックドライバーの過酷な労働は、本当にトラックが好きな人間でないとやっていけない。人には底辺職だと言われ、荷物が当たり前に運ばれると思われ、やれ立ちションだ路駐だと、いつも意識されるのは迷惑行為の時ばかり。
そんな彼らのトラックや運転に対する「好き」という気持ちに、今の業界や荷主は甘えているのが現状である。この業界を長く見ていると、「ちょっとくらい過酷な労働をさせても、ヤツらはこの仕事をやめない」という荷主や業界の魂胆が見え隠れする。