数字が伸びるとわくわくする自分を見つける
翌年には新店舗の立ち上げを任され、津田沼パルコの地階に出店。そこでは求人から苦戦し、農業の生産者がいないエリアなので産直野菜も揃わなかった。何を売ればいいのかと悩み抜いた末、思いきってパンの売り場を作ったところ、見事に当たったという。
「売れるのを見ていると楽しくて、私は商売が好きなんだと思いました。数字がどんどん上がっていくと、本当にわくわくするので」と関戸さん。ようやく自分の「やりがい」を見いだし、毎日が無我夢中だったと振り返る。3年目には正社員として採用され、「エリアマネジャーをやらないか」と声がかかる。そのときも「やります!」と迷わず答えたという。
「現場のやりづらさを解消するのが、私の役割。この会社で自分がやるべきことだと思ったのです。会社の方針(個店経営=エンパワーメントの推進)と自分の目標が完全に一致していると思いました。会社の経営側の認識と現場の状況にはギャップがあって、現場のやりづらさは知っている人にしか変えられない。そのためには私がマネジャーになって、会議の席に出なければいけないと思ったのです。当時は本部で月1回会議があり、エリアマネジャーは男性ばかり。それでも会議の席ではずっと手を挙げていて、『本当にお店の人のことをわかっていますか?』などと生意気なことを言っていましたね」
エリアマネジャーになると、8店舗のマネジメントを担当。店長やリーダーは同じような悩みを抱えており、関戸さんはそれまでの経験を基に、運営の助けとなるリーダーの手引きを作った。そうして風通しが良くなると、現場のモチベーションが上がり、結果にもつながっていく。
店舗のスタッフは、子育てや家庭の事情からパートで入った女性が多いが、優秀な人材を引き上げることも心がけた。楽しそうに働いている人には「リーダーをやってみない?」「店長になりませんか」と声をかけ、サポートする。さらには「正社員になりたい」と希望する人も増えている。関戸さんは女性たちの背中を押すロールモデルになっているようだ。
2010年代後半にはマネジャー職はほぼ男性社員だったが、今では営業本部の管理職約20名はすべて女性になった。
「私は皆の気持ちを背負っている」
「お店の運営は家事に似ていて、どこまでやっても切りがないんですよ。24時間、365日切れ目ないので、ずっと管理し続けなければいけない。けれど、家事を担ってきた女性たちは、切れ目なく現場をまわす感覚を持ち合わせていると思います。毎日やっているからこそ、どんな作業が大変なのか、現場の人は何を負担に感じているのか、どんなことを改善したら嬉しいのかもよくわかる。私はそんな皆の気持ちを背負っているという思いでやってきました」
昨年には営業本部長になり、執行役員に就任した関戸さん。辞令を受けたときは「やります!」と即答したものの、実は初めてプレッシャーを感じたのだと漏らす。
「本当に私にできるだろうかと自分に問いかけてみました。でも、まだまだやりたいことがある、もっと面白いことができるんじゃないかと楽しみに思えたので」と声がはずむ。
「わくわく広場」が目指すのは全国1000店舗の出店だ。さらに売り上げを伸ばし、後進も育成しなければと、夢もふくらんでいる。役員になった重責は感じていても、淡々と気負いなく見えるのは自分の軸がぶれないからだろう。
何かを決断するときに考えるのは、「楽しいか、楽しくないか。それだけです」と関戸さんはほほ笑む。そのためには自分自身と真摯に向き合い、等身大の自分を大切にしてきたのだろう。そんな母の姿を傍らでずっと見てきた子どもたちには、この頃よく言われるらしい。「いつも楽しそうだね」と。
役員の素顔に迫るQ&A
Q 愛読書
ヨシタケシンスケ『かみはこんなにくちゃくちゃだけど』
Q趣味
植物を育てること。最近では「ビカクシダ」にハマっています