準備、知恵、連帯で強者を打ち負かす
アフリカの寓話である。この話の教訓は、知恵をはたらかせ、準備を整え、仲間に協力してもらえれば弱者であっても強者に勝てるということだ。
簡単におさらいをしてみよう。まず、カメは「普通に戦ったのでは勝てない」という冷静な状況判断をした。「どうすれば勝てるか」を考えて知恵を絞った。その末に、親類のカメたちを道筋に配置するという奇策を捻りだした。さっそく準備に取りかかったカメは、親類中の家を訪ね、事情を話した上で作戦の全容について説明した。そして、競走の日の早朝に会場に集まってくれるように頼んだ。
当日、集まった親類のカメたちは、競走が始まる前に一定の間隔で道の脇にこっそりと隠れた。見事なチームワークのおかげでウサギを打ち負かすことができた。そういう話である。
「ウサギとカメ①」と「ウサギとカメ②」を比較してみよう。どちらも、身体能力に劣った者が身体能力の優れた者に勝つという話である。では、どこに違いがあるのか。「ウサギとカメ①」において弱者であるカメが勝てたのはあくまでも相手の油断があったからである。何か知恵をはたらかせたわけでもなく、ただ愚直にまじめに自分のできることをしたのみである。勝ちの要因はたまたまに過ぎず、幸運が舞い込んだということだ。
一方の「ウサギとカメ②」においてカメが勝てたのは、知恵をはたらかせ、準備を整え、仲間に協力してもらったからである。身体能力で勝てない相手には頭脳を駆使して立ち向かわなければいけない。それでも勝てそうにないなら、他者の力を上手に取り込み集団で挑んでいかなければならない。
「ウサギとカメ①」も「ウサギとカメ②」も弱者が強者を打ち負かす寓話である。しかし、逆の寓話――弱者は強者に勝てない寓話――も存在する。たとえば、イソップ寓話の「鷲と鳥と羊飼」(『イソップ寓話集』山本光雄訳、岩波書店)がこれに該当する。この話の最後は「このように優れた者と競争しようとすると、何の得るところもないばかりか、ひどい目にあったおまけに物笑いを買うものです」となっている。
寓話というのは、話によって相矛盾する正反対の教訓が説かれていることに注意したい。弱者でも強者に勝てることを教える寓話もあれば、弱者が身の程をわきまえず強者と競おうとすると恥をかくばかりかひどい目に遭うということを教える寓話もある。
これは、寓話が提供するのは、さまざまな具体的状況の中で自分がどう行動したらいいのかを示す処方箋だからである。いつどんな状況でも片方だけを信じて突き進むのは危険であり、両方の可能性を頭に入れながら適切なほうを選択することを暗示しているのである。