早く結婚したいのに、アプリから抜け出せない
「最初のマッチングは個人で株の投資をやってる人。新宿のパークハイアットのレストランで5万円のコースとシャンパンを御馳走してくれて……。ネットの株売買ならどこに住んでいてもできるから将来はシンガポールかドバイに住みたいと言ってた。イメージとしてはミニ与沢翼」
年収は魅力的だがサエコさんは東京を離れる気持ちはない。それに個人投資家はいつ転落して全財産を失うかもわからないから、怖いという。だが、2度、3度と会ううちに、彼の連れて行ってくれるあちこちの超一流レストランにすっかり味をしめてしまった。
「別にタワマンに住みたいとか別荘が欲しいとかじゃないけど。彼が連れて行ってくれる店は好きだし港区女子の気持ちがわかる。贅沢を楽しむ時間があると、会社で嫌なことがあっても忘れられるし」
その彼と月に3、4回は食事に行きながら、他のマッチング相手ともランダムに会う日々にすっかり慣れてしまった。でも、一つ気になることがある。彼はいまだにアプリから退会していない。自分以外にも会っている人がいてキープにされているのかも、と薄々感じている。
早く専業主婦になりたい、実家を出たいという目的からどんどん遠ざかるのに、アプリの海からは抜け出せない矛盾が膨らむ。
一流高級レストランで食事するマッチングカップルたち
今、都内の一流ホテルの高級レストランは、サエコさんたちのようなマッチングカップル客がどんどん増えているという。
港区で高級ワインバーを営む経営者のFさんは、「自分もアプリに登録して何度か会ったことがあるので、アプリのマッチング客はすぐにわかる」という。和やかだがどこか緊張感があって恋人にしては言葉遣いがぎこちないし、おたがいにかなり気を使っている。そして必ず男性のほうが代金を払うという。
「マッチングのカップルさんはワインも料理も高級なものを注文されるので、お店にとってはかなり収益率のいい客。男性は勝負をかけていることもあって、相手にいいところを見せようと必死だから、キャビアとシャンパンのスペシャルメニューもよく出る」
その中の何パーセントが結婚にたどりつくかは謎だが、少なくともマッチング依存が傾いた日本経済を回す一助になっていることは確かだ。