出社は月1回、給料は150万円
謙さんは父の会社に入り、社長を継いだものの、やりたい放題で食い散らかしたという。
40代に入って、一回り以上年下の資産家の娘と再婚した後は、家族旅行も赤ちゃんグッズも別荘も、すべて会社の経費で落とした。出社するのは月1回、しかも経費の精算をするのみ。会社名義でマンションや別荘、クルーザーを買い、南東北地方で土地を買い、妻子とともにスローライフを満喫していたというのだ。
挙句の果てには、現場の仕事自体が面倒臭いからといって、東京の現場の従業員ごと他の会社に譲渡してしまったという。
「叔父、つまり父の実弟がいるんですけど、謙はこの叔父とつるんで、父の会社を食いつぶそうとしたんです。他に支社があるので会社全体としては利益も上げていますし、屋台骨はしっかりあるんですが、謙は社長という肩書だけで、実質は何も仕事をしていませんでした。それでいて、毎月給料150万ももらって、経費使いたい放題ですからね。
以前、父に対して吐いた暴言そのまんまですよ。経費で遊んでいるとか、人を使って搾取しているとか、どの口が言う? って話です」
おまけに実家を強引に担保に借金までしていたというのだから、なかなかの銭ゲバである。美華さんは弁護士とともに、横領の証拠を集め、株主総会で解任を叩きつけた。その後、美華さんが社長就任したのかと思いきや、そうではなかった。
社長になる条件は兄弟との養子縁組解除
「母を就かせました。妹が社長になるというのは、支社にいる次兄や三兄が許さないから。といっても母は何もできませんから、実質的に動くのは私です。
母が社長になる際に、銀行から融資を受けたのですが、そのときの条件が『3人の息子たちとの養子縁組解除』でした。確かにこれ以上、食いつぶされたらたまったものじゃない。父が作った会社、父が建てた家を取られるわけにはいきませんからね。謙も面倒臭いと思ったのか、勝手にしろと言い放って、去っていきました」
事実上、縁を切った状態となったわけだが、謙さんがついてきた嘘は許しがたいものがある、と美華さんはこぶしを握りしめる。
「借金をして、高額の給料を手にし、経費を使い込んできた謙は、嘘をついて家族を騙し続けました。他のふたりは馬鹿なだけですが、謙だけは悪知恵が働くワルなんです。前妻に慰謝料と養育費を払うのが大変だからといって、自分の給料だけ大幅に上げましたが、途中から養育費は払っていませんでした。
しかも、前妻と共有名義のマンションを抵当に、銀行から勝手に1500万も借りていたことが発覚。息子にあげるといっていたマンションを勝手に、ですよ?」
結果的には、差し押さえになる前にそのマンションを売り、借金を相殺した残金を夫婦で分けたという。息子にあげると約束していた家はなくなり、残ったのはわずか250万。