「売り上げが上がったから経費も」ではいけない

稲盛さんは、「常識を鵜呑みにするのではなく、ものごとの本質に照らし合わせて、自分の頭で何が正しいか考えろ」と日頃私たち塾生に口をすっぱくして説いた。

例えばこの業界の利益率は○○%だからうちも○○%を目指すというような考え方は稲盛さんには一切なかった。業界の標準に合わせるのではなく独自に目指すべき利益率を定めろと説いた。

また、一般の常識では、売り上げが上がれば経費も上がると考える。しかし、稲盛さんは違った。経営の本質は、売り上げから経費を引いた「利益」を上げること。だから、経費を維持したまま売り上げを上げるべきだと考えた。

不況が来た途端売り上げは激減する。経費を同じ勢いで減らすことが難しい。「売り上げが上がっているから」と経費もどんどん増やしていけば、会社は一夜にして窮地に陥ってしまう。そのことを稲盛さんは知っていた。

「常識を鵜呑みにするな」

稲盛さんの経営哲学は、われわれ個人の人生にも応用できる。「常識を鵜呑みにするな」も然りだ。

先に挙げた売り上げと共に経費も上げるなというのが良い例だろう。

飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍し、人生100回分ぐらいの資産があった有名人が、あっという間に没落し一文なしになることは珍しくない。あんなにたくさんあったお金は一体どこに消えたのか?

「収入が増えれば支出も同じように増やすもの」という常識を鵜呑みにし、収入が上がるのと同時にライフスタイルを派手にしていく。その結果、自分の時代が終わり収入が途切れてもライフスタイルを急に変えることはできず、億万長者から無一文にあっという間に転落してしまうのだ。

なぜ、そんな人が後を絶たないのか? それは、常識にあらがって波風を立てたくない、面倒くさい人になることを避けたいからだ。

けれども常識というのは、その時代にその場所に住む多くの人が信じていることではあっても、実は決して最善とは限らないのだ。