畑村洋太郎式文章術
蕎麦屋でおいしい蕎麦を食べたとします。その店の魅力を文章で伝えるとき、どう構成を考えればよいでしょうか。
おいしいと感じた理由を分解すると「蕎麦」「汁」「器」「接客」など、さまざまな要素を思いつくはずです。もちろんこのまま要素を並べても、相手には伝わりません。そこでまず各要素のつながりを理解して、「おいしい蕎麦屋」を構造化する必要があります。
構造化には図を活用します。要素を白紙にランダムに並べて、属性が同じ要素をキーワードで括ります。たとえば「蕎麦」「汁」「エビ」といった要素は、「味」という上位概念(キーワード)で括られます。次にキーワード同士の関係を考えて線でつなぎ、全体像を把握します。こうしてできた図を“思考展開図”といい、あらゆる事象は、この図で構造化することができます。
あとはこれを文章化するだけです。全体構造がわかれば、文章の構成は難しくありません。いきなり関係のない要素が割り込んできたり、本来なら因果関係のあるキーワードが離れ離れになるといった混乱も防げるはずです。
もし構成に迷ったら、思考展開図に立ち返ってください。図と文章を何度も往復することによって理解が深まり、構成もよりクリアになるでしょう。
思考展開図では、助詞や接続詞にあたる線を使いません。一目で要素やキーワードの関係がわかるので、いちいち矢印を使うなどして、お互いの関係性を強調する必要性がないのです。
実は文章化する際も、過度に助詞や接続詞を使う必要はありません。副詞や形容詞も不要です。これらで関係性を強調しなければいけない文章は、構造化がきちんとできていない証拠。全体構造がつかめていれば、文章はシンプルになるはずです。
(村上 敬=構成 相澤 正、熊谷武二=撮影)