脳に不可欠な「多価不飽和脂肪酸」が有害になる理由

多価不飽和脂肪酸は、脳に欠かせない重要な成分だが、化学的に不安定なため非常に「酸化」しやすい。

酸化とは、酸素が特定の分子と化学的に反応して、ダメージを受けた「ゾンビ」分子を新たにつくる現象だ。このゾンビ分子は「フリーラジカル」といわれ、きわめて反応性の高い電子を持っている。「きわめて反応性の高い」というのは、どんな反応なのか? このラジカルは、たとえるなら『ゲーム・オブ・スローンズ』のホワイトウォーカーの軍団を、反戦主義を掲げて行進するヒッピーのように見せかけるのだ。

フリーラジカルの電子は1つしかないため、すぐ近くにある分子から電子を奮ってペアを組む。本来、分子のなかの電子は2つあってペアを組んでいるため、そこからいつまでも終わらない連鎖反応が始まり、通った道筋に破壊的な大混乱を残していく。まさにゾンビが行進する終末世界のようなありさまで、1つの分子が隣の分子に噛みついて感染させるごとに、ゾンビ分子がどんどん増えていくのだ。

傷んでいない(これを「新鮮な」と呼ぼう)多価不飽和脂肪酸は酸化に弱いが、自然食品の場合は内部で、ビタミンEのような脂肪を守る抗酸化物質とひとまとめにされている。だが、加熱され化学的に処理された油に含まれる多価不飽和脂肪酸に、このような抗酸化作用はない。こうした油が抽出されて加工食品に使われると、食品供給においては主要な有害物の1つとなる。

こうした油は、市販のドレッシングやマーガリンなどに使われている場合がある。また、それよりも目立たない場所に隠れていることもある。クッキーやケーキ、グラノーラバー、ポテトチップス、ピッツァ、パスタ料理、パン、アイスクリームなど、穀物を原料とする菓子やスナック類には、酸化した油が特に多く含まれているという。朝食のシリアルをコーティングして、「ニス」の役目を果たしているものもある。「ローストされた」ナッツ類も、この油にまみれている(から煎り〔ドライロースト〕されていると明示されていないかぎり)。

酸化した油脂の副産物「アルデヒド」の危険性

またレストランでは、このような油が加工されて不適切な形で保管され(たとえば、何カ月も気温の高い厨房ちゅうぼうに放置される)、それが料理のたびに出されて何度も加熱されるため、こうした傷みやすい油脂は酸化してしまう。今、ほとんどのレストランが、そんな油で食材を揚げたり炒めたりしており、同じ油を繰り返し使って、さらに劣化させている。それが胃袋に入って消化されると、あなたの身体にダメージが及ぶ。

では、フライドポテトはどうなのか? 天ぷらは? ビール入りの衣で揚げたチキンフィンガーは? どれもみな、この変質した油や「アルデヒド」という危険な化合物を山ほど口に運ぶものだ。

フライドポテトを作る様子
写真=iStock.com/FG Trade
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アルデヒドは酸化した油脂の副産物で、アルツハイマー病に侵された脳にたくさん見つかっている。このアルデヒドは脳内のタンパク質と反応しやすく、アルツハイマー病の特徴である粘着質のプラークの形成に関わっているという説がある。アルデヒドは、脳と脊髄のエネルギーを生みだすミトコンドリアにとっても、強力な有害物質となる。

アルデヒドの曝露ばくろ(=変質した油を摂取することで起きる)は、エネルギーをつくる細胞の力に直接ダメージを与える。これは、体内でエネルギーを大量に消費している脳にとっては、非常に悪いニュースだ。

多価不飽和脂肪酸の油がたっぷり使われた料理を一度食べただけでも、脂質酸化マーカーが、若い人でおよそ50パーセント跳ね上がるが、劣化した油を摂取した高齢の被験者の場合、マーカーが15倍も上がることが観察されている。

別の研究では、同じような食事をとったのちに動脈がたちまち硬化し、運動ができなくなるという記録もある。このような本来の姿とはかけ離れた油は、慢性疾患のメカニズムに拍車をかけ、DNAを傷つけ、血管の炎症を起こし、いくつかのガンのリスクを高める。