大量採用の反動で30代、40代の中堅が不足している

現在も、教員の指導力は下がり、全学習活動に対する学校の支配力も下がり続けている。

理由を2つ述べる。

1つは、教員の年齢構成からくるものだ。一言で言えば、学習指導でも生活指導でも、ノウハウを熟知したベテランがいなくなる現実を指している。

図表2のように、自治体によっては4割を占めていた50代の教員が、2020年代中には現場から姿を消すからだ。

小学校教員の年齢構成の変化
出所=『学校がウソくさい』より

なぜ、教員の年齢構成がこんなふうに歪んだワイングラス型、というよりシャンパングラスに近く、上の厚みが過剰で真ん中がくびれてしまうのか。

原因は、採用の仕方である。50代以上、60代やその上の団塊世代にわたるかつての大量採用の反動で、現在の30代、40代を十分に採用できない時代があった。ゆえに50代の多くが退職する今、慌てて20代の教員、つまり大量の新卒を募集している状況なのだ。

人手が足りないなら中途採用で補充すればいいじゃないか、と指摘する人がいるかもしれない。だが、それができるのはビジネスパーソンの場合だ。教員の採用ではそうはいかない。30代、40代の仕事盛りの時期に、しかも成功している人の場合はとくに、別の職種から教職に転じることに経済的な魅力はない。仮に転職を考えたとしても、大学に入り直して教員免許を取ってまで学校現場を目指す志のある人材は少ない。

逆に、ビジネスの競争に敗れ、教員免許は学生のときに取っておいたから先生でもやるかと20代後半から教職を目指す人材はいるが、配置後に児童生徒にリスペクトされうるかどうかは、人間力次第だ。東京都は一時期中途採用に力を入れていたが、なかなか難しかったようだ。

年齢層に断層があるとノウハウが共有されにくい

私企業でもそうだが、年齢層にこうした断層がある場合、ノウハウが共有されづらくなるのはよく知られた事実だ。ノウハウとは、研修会で学んだり、マニュアルに書けば伝承される、というものではない。一緒に学ぶ組織風土の中で、先輩から後輩に「ナナメの関係」で伝染・感染される性質のものである。自分のすぐ上に先輩がいればオン・ザ・ジョブ・トレーニングがなされ、英語の教授法も、いじめの対処法も引き継がれていく。

しかし断層がある場合は、容易には引き継がれない。だから、学習指導のノウハウはもちろんのこと、学校でのトラブルの解決についても、ますます難しくなっていく。

ちなみに、この世代間の断層のせいでノウハウが引き継がれなくなる現象は、警察組織でも同様に起きていた。20年も前に警視庁の中枢にいた人物から聞いたのだが、これからの捜査と検挙は、今日でいう警察のDX(デジタル・トランスフォーメーション)化にかかっていると看破していた。その頃からだろうか、防犯カメラやNシステム(自動車ナンバー自動読取装置)の映像をつないでいく捜査や、スマホでの振る舞いを証拠に検挙されるケースが増えてきたように思う。