「君臣一体」となった兼続との強い絆
また上杉景勝というと、NHK大河ドラマ「天地人」の主人公で、「学問詩歌の達者、才智武道兼ねる兵なり」と評された側近、直江兼続との主従関係を抜きにして語ることができない。
当時、内政、外交、軍事など重要な施策については、老臣を中心とした複数の家老による合議を経て意思決定するのが、どの大名家でも常であった。しかし、天正16(1588)年に景勝はその家老職を廃して兼続による単独執政体制を敷き、全権を委任する。それまで前例のない、まったく新しい政治体制へとシフトさせたのだ。
その兼続の意見や報告を、景勝はほとんど表情を変えずに聞き、異論をとなえることなく受け入れた。そのことは取りも直さず、「そなたという男を認めている。だから、そなたのやることに口出しはせぬ。任せた以上は、しっかりやれ」という、無限の信頼を景勝が兼続に寄せていることの証しでもあった。
そういうと読者のなかには景勝を無責任と感じる人がいるかもしれない。しかし、そうではないのだ。景勝はすべての権限を委譲したうえで、「あとの責任は自分が取る」と肚を据えていたのである。これは簡単なようでいて、なかなか真似できることではない。部下の失敗の責任は取らないが、その功績は横取りしてしまう、景勝とは正反対の上司が職場に少なからずいることでもわかるだろう。
そうした景勝の広い度量と、あくまでも主君を立てようとする兼続の分をわきまえた姿勢が相俟って、「君臣一体」の強い絆が結ばれたのだ。そこに理想的な上司と部下との関係を見出すことができるのではないだろうか。