処方箋①「変化報酬」を設ける

では、こうした抑制メカニズムに対抗して、積極的に変化を生んでいきたい組織はどうすればいいのでしょうか。データからの示唆をそのままひっくり返し、「もうこれ以上、メンバー同士は助け合わないようにすること」というルールでも定めるのでしょうか。

むろん、そうではありません。今まで助け合っていた同僚がいきなり助け合わなくなるようなことは、「この会社は人に冷たくなった」といった反感や抵抗を生み出すでしょう。

この変化抑制のメカニズムに対抗する手段については、アンラーニング促進についての統計解析の結果から、すでにヒントが得られています。ここでは、そこでの発見事項を整理して、「変化報酬」と「挑戦共有」という二つの方向性を提示したいと思います。

【図表2】変化抑制への処方箋
図版作成=筆者

一つ目の方向性は、「変化報酬」型です。これは、変化抑制についての予期されてしまった負荷を「打ち消す」タイプのやり方です。職場内で何かしらの変化を起こすことは確かに大変かもしれません。しかし、その予期された「大変さ=コスト」を凌駕するような、より多くの「見返り=報酬」を用意すれば、人は変化を起こすことを厭わなくなるということです。

では、ここでの具体的な報酬として何が考えられるでしょうか。一つは、「キャリア」にとっての報酬、つまり具体的な「ポスト」や「役職」です。

近年、各企業でDX推進部が雨後のたけのこのように続々と新設されていく中で、課長・部長・ディレクターといったポストも当然新設されていきます。「DX」が世論含めた一大潮流となっている今、そうしたポストにつけることは個人のキャリアにとっては「報酬」の一つになるでしょう。

役職による報酬とも紐づきますが、もう一つの変化への報酬は、金銭的報酬です。

DX推進やデジタル推進の新設部署を設定する企業では、賃金制度においても「出島」方式で、特別に他の高い報酬レンジを準備する企業も増えてきました。メリハリのある処遇のつけ方や、賞与のメリハリや特別なインセンティブを設計して「変化」や「挑戦」へと報いていく、その見返りを期待させることによって〈変化抑制〉意識を抑え込むということは検討に値するでしょう。

変化を起こした経験は転職市場で有利

役職、金銭的報酬とは別に、「経験」という報酬もあります。

新規事業開発や、新しい顧客の開拓、組織に変化を起こした経験などは転職においても有利になります。安定的な大手企業でも、自社に何か新しい風を起こしてくれる人を採用したいというニーズは極めて高いものです。新しいサービス、事業、プロセスを創出してきた経験は、いまの日本の転職マーケットで高い価値として認められます。そうしたキャリアへの魅力を伝えていくのも報酬系施策としては有効でしょう。