長時間労働や賃金未払いなどの問題が山積していた

技能実習制度などの見直しを検討する政府の「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」は5月11日、技能実習制度の廃止と新たな制度の創設を求める中間報告書を法務大臣に提出した。

同制度は、発展途上国の出身者が「技能実習」の在留資格で最長で5年間、技術を学ぶしくみだ。技能を身に付けた外国人を帰国させることで、現地に技能移転し国際貢献する名目で1993年に導入された。だが現実には、農業や建設業、縫製業などで労働力を確保する手段として使われている。

こうした目的と実態の乖離かいりは繰り返し批判されてきた。長時間労働や賃金の未払いなど、一部の受け入れ企業や生産者による法令違反や人権侵害が続いてきた。

原則3年間は職場を変えられないため、労働環境や賃金に不満を持つ実習生が行方をくらます「失踪」が相次ぐ。とくに地方の農業現場は賃金が安くなりがちで、職場によっては残業が少ないため、稼ぎが悪いと見切りを付けられがちだ。

失踪者は、都市部でより稼ぎのいい仕事に就くこともあれば、行き場をなくして窃盗といった犯罪に手を染めることもある。

技能実習制度への批判が国内外で高まったのを受けて、2022年12月に有識者会議が設置された。「制度が直面する様々な課題を解決した上で、国際的にも理解を得られる制度を目指す」(有識者会議事務局)としており、同制度が廃止されるのではないかという見立ては当初からあった。それがいよいよ現実になろうとしている。

自分が異邦人と錯覚するほど外国人が多い農業現場も

農業現場を支えるのは外国人。そんな産地や農業法人は川上村に限らず、全国に存在する。共著『人口減少時代の農業と食』(ちくま新書)でも触れたが、人手を集めにくい地方ほど、外国人が欠かせない職場になっている。

窪田新之助、山口亮子『人口減少時代の農業と食』(ちくま新書)
窪田新之助、山口亮子『人口減少時代の農業と食』(ちくま新書)

かつて訪れた苗生産大手の作業場では、ベトナム出身の女性たちが黙々と作業をこなしていた。数百ヘクタールを耕作する農業法人の農舎では、女性たちが東北なまりのきつい中国語でよもやま話に花を咲かせながらニンジンを洗っていた。JAの出荷調製施設から終業時間に出てきて自転車で家路につく人々は、ベトナムとカンボジアの出身だった……。

そんなふうに、外国語が飛び交い、一瞬、自分の方が異邦人であるような錯覚に陥る現場をいくつも見てきた。

農業分野の外国人労働者数は22年に4万3562人に達している。これは、12年の2.7倍に上る。

農林水産省「農業分野における新たな外国人材の受入れについて」令和5年3月