新制度は「転籍」が認められる

一方で農業就業人口は、1960年を境に右肩下がりを続けてきた。野菜や果樹、花卉といった園芸作物や、酪農といった畜産の大産地ほど、労働力不足を補う存在として早くから外国人を受け入れてきた。

外国人のうち、最も多いのが技能実習生。次いで多いのが、特定技能外国人だ。特定技能制度は、農業を含む人手不足の14分野で、外国人が働ける在留資格「特定技能」を与えるもの。一定の専門性と技能を持つ外国人を即戦力として受け入れる。

職場を変えにくい技能実習生と違い、特定技能外国人は職場を変える「転籍」が条件付きながら認められている。技能実習を終えた外国人が、特定技能に在留資格を変えることもできる。

有識者会議は、批判が集中していた技能実習制度を廃止しそれに代わる新たな制度を創設、特定技能制度は引き続き運用――という方向性を打ち出した。この決定が農業関係者から不安視されている。というのも、新制度が転籍を認める方向だからだ。

有識者会議は「中間報告書(概要)」で、技能実習制度の転籍のあり方について次のようにまとめている。

「人材育成に由来する転籍制限は残しつつも、制度目的に人材確保を位置付けることから、制度趣旨と外国人の保護の観点から、従来より緩和する」

「3年間同じ職場でなければ身に付けられない技能などない」

農水省就農・女性課外国人グループは「転籍はまったくダメだとすることは、もう無理という状況になっていると思う」と受け止めている。

中間報告書はこれまで行われてきた転籍の制限を次のように手厳しく批判する。

「その業種特有の技能についても、現行の技能実習制度のように3年間同じ職場でなければ身に付けられないものが今の技能実習制度の職種にあるとは考えられない」

希望者に職場の変更を認めることは、労働者に本来与えられてしかるべき権利ではある。ただ、これは同時に、地方の農業現場を危機に陥れかねないことでもある。

自由に転職できるようになれば、最低賃金の低い地方の職場に外国人がとどまる理由はなくなってしまう。高い賃金を求めて地方から都市部へ労働力が流出する事態が、日本人だけでなく外国人でも起こりうる。

川上村の原さんは「まだ転籍がどのように扱われるかよく分からない」としつつ、「外国人が転籍で村外に出て行ってしまうことが危惧されます」と不安を口にする。

「賃金の高い東京などの都市部に働き手が流れて、地方が後回しになってしまうのではないか」