交通費1億3000万円、オフィス賃料1億円を削減
2番目のメリットとして通勤費やオフィス賃料などコスト削減効果も大きい。エン・ジャパンもオフィススペースをコロナ前の約半分に縮小。現在はハイブリッド勤務者がフル活用している。前出の通信系企業の人事担当者は「リモートワークへの転換を機に通勤定期代支給から出社時の実費精算に切り替え、同時に出社率を前提にオフィス面積を縮小した。その結果、交通費・旅費等で年間約1億3000万円、オフィス賃料で約1億円を削減することができた。そのほか電気代やコピー代等の経費も減少した」と語る。
何より最も大きなメリットは③の「人材の定着と優秀人材の採用」だろう。エン・ジャパンの平原室長は従業員の満足度が高くなったとし、とくに子育てとの両立のしやすさを理由に挙げる。
「通勤時間がなくなることによって、その時間を仕事に充てるなど自由に使える。とくに子育てしているママさん社員は保育園の送迎や家のことに対応する時間がつくりやすくなったと喜んでいる。また、子どもが風邪をひいたり、熱を出したりと、突発的な事態が発生すると、欠勤や早退を余儀なくされる。在宅だと仕事に穴を空けずに柔軟に対応できるという声も多い」
同社は子育て中の短時間勤務のママさん社員は全体の6~7%もいる。子どもを持つ男性社員を含めると1割以上がリモートワークの恩恵を受けていることになる。
地方の優秀なフルリモート人材を採用
もう1つは採用の効果だ。同社は「フルリモート可」のアシスタント職を募集した。その結果、地方在住の優秀な女性を多く採用できたと言う。「都市部で事務系ホワイトカラーの仕事をしていた女性が退職し、配偶者の転勤などの事情で地方に移住した女性も多い。地方では前職と同じ仕事が見つからなかったが、フルリモートで同じような仕事ができるということで多数の応募があった」(平原室長)。
リモートワーク可能な企業は中途採用力にも影響する。前出のエン・ジャパンの調査では「今後の希望する働き方」を聞いているが、最も多かったのは「出社と在宅を組み合わせたい」というハイブリッド勤務が65%。「完全な在宅・テレワークを希望している」が20%。「在宅・テレワークは希望していない」は16%で少数派にとどまる。また、「新型コロナ後の企業選びの軸」調査(2023年2月14日)によると、転職志望者が特に重視するものとして「希望の働き方(テレワーク・副業など)ができるか」を挙げている人が51%と最も多く、20代は56%、30代は59%を占める。
これは当然かもしれない。コロナ禍で時間と場所に縛られない自由度の高い働き方が浸透し、それを享受している人もいれば、個人の生産性向上につながることを自覚している人もいる。そういう人にとってはフル出社の企業は避けたいと思っても不思議ではないし、原則出社の企業は人材獲得では不利に働くだろう。