「宗教二世」という言葉の裏にある思い込み

【最相】「『宗教二世』と言われるのは嫌だ」とおっしゃる若いクリスチャンの方もいらっしゃいましたね。

【島薗】必ずしも宗教二世が抑圧されているわけではなく、イスラム圏に行ったら、国民のほとんどが宗教二世なわけです。「宗教二世」というときに、「無宗教なのが当たり前で正常なんだ」という前提があるように思いますね。これは日本で生じやすい錯覚でしょう。

みんな、何かしらの影響を周囲から受けていて、例えば、科学を信奉していた父の子である私は「科学二世」であるといえますね(笑)。宗教の影響なしに育ったことを、当たり前のことだと思わず、自分はそれなりの歴史があってそうした環境であったんだと顧みる必要があると思っています。

島薗氏
撮影=髙須力
医師家系に生まれた島薗氏は、東京大学医学部に入学したあとに文学部に移り、宗教学を専攻した

そもそも「カルト」という言葉自体も、一般的に通用していますが、学問的には規定できません。説明しようと思っても、ちゃんと説明できないものです。

信仰は人を強くする一方で、先鋭的にする

【最相】宗教を考えるとき、「○○はカルト」と言って特定の団体を排除して解決するのがいいのか、いつも疑問に思います。今回は統一教会の問題になっていますが、どんな宗教でも起こりうることだと思います。

なにかを信仰することは、人間を強くするかもしれませんが、信じないものに対する排除や攻撃に転じたり、先鋭的になってしまう危険性を持っている。その強さと怖さの両方をふまえながら、信仰自体を理解していくことが必要なのではないかと思いますね。

【島薗】そこが宗教の難しいかつ、面白いところでもあると、私のように共鳴しつつも距離をとっている人間からすると思います。

宗教は尖っている部分があるからこそ、深みも出てくる。宗教の力をうまく柔軟な方に向けていくためには、社会全体が宗教に関心を持つことが大切です。『証し』は、日本のキリスト教を考えるヒントが数多く埋め込まれていながら、しかも日常語で宗教を語っていますから、ぜひ多くの方に読んでいただきたいですね。

(構成=山本ぽてと)
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